[SVC38-P05] 榛名火山二ッ岳渋川噴火、ブロック・アンド・アッシュ・フロー堆積物の産状と岩石学
キーワード:榛名火山、ブロック・アンド・アッシュ・フロー堆積物、マッシュ状珪長質マグマ、噴火誘発、マグマ混合、高温マグマによる 加熱
榛名火山は東北日本弧の最南端に位置する活火山である。 最新の活動は二ッ岳において発生した渋川噴火(5世紀後半〜6世紀初頭)と伊香保噴火(6世紀後半〜7世紀初頭)である(年代は下司・大石 (2011))。早田(1989)の記載した火砕物の層相を参考にすると、渋川噴火(0.4 DRE km3 )では溶岩ドームの爆発的破壊により火砕流が発生し、伊香保噴火(0.99 DRE km3)では噴煙柱の崩壊により火砕流が発生したといえる(噴出量は山元(2013))。Suzuki and Nakada (2007)は伊香保噴火を検討し、マッシュ状の珪長質マグマに高温マグマが注入し、その結果発生した低粘性のマグマ(加熱を受けた珪長質マグマと混合マグマ)が火口を開栓し、マグマ溜りに残っていたマッシュ状マグマも噴出するという噴火誘発モデルを提案した。同じ火口から最短で数十年前に発生していた渋川噴火も、共通のマグマ供給系が源となっている可能性が高い。そこで2噴火の準備過程を連続した視点で読み解くことが不可欠である。
渋川噴火の露頭は、ブロック・アンド・アッシュ・フロー(BAF)堆積物が主体の露頭(本発表)と、水蒸気爆発や火砕サージに由来する細粒火砕物の露頭(丸山・鈴木, 2019;本大会)に大別される。河谷に近い位置にBAF堆積物の露頭が、遠ざかった位置に細粒火砕物の露頭が存在する。渋川噴火のBAF堆積物には比較的大型の本質軽石ブロック(〜30cm)が含まれる特徴がある。そのため最大でも火山礫サイズの軽石のみが含まれる細粒火砕堆積物に比べ、全岩組成分析等において有利である。本研究では、榛名山北東麓の大輪川沿い(中野)と登沢川沿い(下川島)、南東麓の榛名白川沿い(松之沢・西明屋)の合計4露頭にて、調査及びサンプリングを実施した。北東麓では黒ボク土を挟んで上位に二ツ岳伊香保噴火の降下軽石が存在することで、渋川噴火の産物であることが確認できた。南東麓のBAF堆積物は、従来、45kaの榛名カルデラ噴火の産物と考えられていた。しかし下司・大石(2011)の炭素14年代測定により渋川噴火のものと判明した。BAF堆積物は狭在する火山灰層により複数のユニットに分割できる場合もあった(全面露頭であった中野・下川島など)。本質ブロックは、どの露頭・ユニットでも、白色・灰色・濃灰色に分類された。色彩の異なる部分が縞状に分布していたり、あるいは不規則に混在しているブロックも確認された。
ブロックが比較的新鮮であった(西明屋を除く)3露頭から、色彩を網羅する合計21試料を検討した。東大地震研にて外西・他(2015)の方法で全岩組成を分析したところSiO2量が60.6-61.7wt%と非常に均質で珪長質安山岩であった。さらに北東麓と南東麓とで、全岩組成に系統差がないことも判明した。雲仙1991-1995年噴火では噴出マグマの組成に時間変化があり、しかも火砕流の流下方向に時間変化があった(Nakada and Motomura, 1999)。今回のデータの範囲では、渋川噴火について、組成と流下方向の時間変化を示す関係は見られない。軽石の色彩を網羅する6試料について薄片を作成し、記載岩石学的特徴を予察的に検討した。斑晶鉱物として角閃石、斜方輝石、斜長石、石英、Fe-Ti酸化物を確認した。石英は8薄片に1粒子しか存在せず非常に希である。石英を除き、斑晶は互いに集斑晶を形成しており平衡晶出したと推測される。斜長石のリムには汚濁帯が観察され、噴火直前にメルトが未分化になったことを示す。メルトを未分化にするプロセスとして、高温マグマとの混合か、高温マグマによる加熱の可能性が挙げられる。マグマ混合が起きたのであれば、高温マグマは無斑晶質であったと考えられる。軽石の色彩により、全岩組成や斑晶組み合わせが変化しないことから、色の差は石基結晶量の相違(Gardner et al., 1998)によりもたらされた可能性が高い。角閃石の分解縁も、濃灰色のブロックのみで観察された。
Suzuki and Nakada (2007)によると、伊香保噴火の初期には加熱された珪長質端成分マグマが、中盤には加熱も受けていない珪長質端成分マグマが、両者とも白色軽石(60〜62 wt.% SiO2)として噴出している。白色軽石は角閃石、斜方輝石、斜長石、Fe-Ti酸化物の斑晶を含んでいる。以上のことから、渋川噴火と伊香保噴火では、互いによく似た珪長質マグマが活動した可能性が高い。伊香保噴火では、苦鉄質マグマの混合の明らかな噴出物(灰色軽石や溶岩、〜57.5 wt.% SiO2)が確認されている。2噴火で共通の珪長質マグマが活動したのなら、渋川噴火の噴出物の生成における高温マグマの混合比は(仮に起きていても)非常に小さかったということになる。今後、渋川噴火の噴火誘発過程を詳しく調べることはもちろんのこと、伊香保噴火の珪長質マグマ由来の斑晶に、噴火の数十年前の高温マグマによる加熱・混合の影響が残っているのか調べてみる必要がある。
渋川噴火の露頭は、ブロック・アンド・アッシュ・フロー(BAF)堆積物が主体の露頭(本発表)と、水蒸気爆発や火砕サージに由来する細粒火砕物の露頭(丸山・鈴木, 2019;本大会)に大別される。河谷に近い位置にBAF堆積物の露頭が、遠ざかった位置に細粒火砕物の露頭が存在する。渋川噴火のBAF堆積物には比較的大型の本質軽石ブロック(〜30cm)が含まれる特徴がある。そのため最大でも火山礫サイズの軽石のみが含まれる細粒火砕堆積物に比べ、全岩組成分析等において有利である。本研究では、榛名山北東麓の大輪川沿い(中野)と登沢川沿い(下川島)、南東麓の榛名白川沿い(松之沢・西明屋)の合計4露頭にて、調査及びサンプリングを実施した。北東麓では黒ボク土を挟んで上位に二ツ岳伊香保噴火の降下軽石が存在することで、渋川噴火の産物であることが確認できた。南東麓のBAF堆積物は、従来、45kaの榛名カルデラ噴火の産物と考えられていた。しかし下司・大石(2011)の炭素14年代測定により渋川噴火のものと判明した。BAF堆積物は狭在する火山灰層により複数のユニットに分割できる場合もあった(全面露頭であった中野・下川島など)。本質ブロックは、どの露頭・ユニットでも、白色・灰色・濃灰色に分類された。色彩の異なる部分が縞状に分布していたり、あるいは不規則に混在しているブロックも確認された。
ブロックが比較的新鮮であった(西明屋を除く)3露頭から、色彩を網羅する合計21試料を検討した。東大地震研にて外西・他(2015)の方法で全岩組成を分析したところSiO2量が60.6-61.7wt%と非常に均質で珪長質安山岩であった。さらに北東麓と南東麓とで、全岩組成に系統差がないことも判明した。雲仙1991-1995年噴火では噴出マグマの組成に時間変化があり、しかも火砕流の流下方向に時間変化があった(Nakada and Motomura, 1999)。今回のデータの範囲では、渋川噴火について、組成と流下方向の時間変化を示す関係は見られない。軽石の色彩を網羅する6試料について薄片を作成し、記載岩石学的特徴を予察的に検討した。斑晶鉱物として角閃石、斜方輝石、斜長石、石英、Fe-Ti酸化物を確認した。石英は8薄片に1粒子しか存在せず非常に希である。石英を除き、斑晶は互いに集斑晶を形成しており平衡晶出したと推測される。斜長石のリムには汚濁帯が観察され、噴火直前にメルトが未分化になったことを示す。メルトを未分化にするプロセスとして、高温マグマとの混合か、高温マグマによる加熱の可能性が挙げられる。マグマ混合が起きたのであれば、高温マグマは無斑晶質であったと考えられる。軽石の色彩により、全岩組成や斑晶組み合わせが変化しないことから、色の差は石基結晶量の相違(Gardner et al., 1998)によりもたらされた可能性が高い。角閃石の分解縁も、濃灰色のブロックのみで観察された。
Suzuki and Nakada (2007)によると、伊香保噴火の初期には加熱された珪長質端成分マグマが、中盤には加熱も受けていない珪長質端成分マグマが、両者とも白色軽石(60〜62 wt.% SiO2)として噴出している。白色軽石は角閃石、斜方輝石、斜長石、Fe-Ti酸化物の斑晶を含んでいる。以上のことから、渋川噴火と伊香保噴火では、互いによく似た珪長質マグマが活動した可能性が高い。伊香保噴火では、苦鉄質マグマの混合の明らかな噴出物(灰色軽石や溶岩、〜57.5 wt.% SiO2)が確認されている。2噴火で共通の珪長質マグマが活動したのなら、渋川噴火の噴出物の生成における高温マグマの混合比は(仮に起きていても)非常に小さかったということになる。今後、渋川噴火の噴火誘発過程を詳しく調べることはもちろんのこと、伊香保噴火の珪長質マグマ由来の斑晶に、噴火の数十年前の高温マグマによる加熱・混合の影響が残っているのか調べてみる必要がある。