日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC38-P16] 傾斜計データにおける降雨及び融雪補正の効果  -御嶽山への適用例-

*木村 一洋1,5河島 克久2松元 高峰2佐々木 明彦4伊豫部 勉3宮村 淳一1中橋 正樹1 (1.気象庁地震火山部火山課、2.新潟大学災害・復興科学研究所、3.京都大学大学院工学研究科、4.国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース、5.新潟大学自然科学研究科)

キーワード:傾斜計、御嶽山、降雨、融雪

2014年9月に御嶽山で発生した水蒸気噴火において、気象庁が火山監視目的で山頂南東側約3km地点の田の原(標高2196m)に設置した傾斜計により、噴火開始数分前から山側上がり、噴火開始後は山側下がりの傾斜変化が観測された(気象庁、2014)。その後、木村・中橋(2015)は、木村・他(2015)のタンクモデルを用いた手法により夏季(6月~10月)の田の原傾斜計東西成分データに降水補正を行った結果、御嶽山山頂直下で地震活動が活発化した2014年9月10日頃から始まる西側上がりの傾斜変化を検出した。同様な傾斜変化はこれまでに数回確認されているが、春季(3月~5月)における融雪の影響を除去できていないといった課題が残っていた。

 宮村・他(2017)は、木村・他(2015)の手法でタンクモデルに積雪層を加える拡張を行い、降水量データに加えて融雪量データを入力値とする手法を開発して田の原傾斜計東西成分データに適用し、融雪の影響をある程度除去できることを確認した。なお、融雪量の推定には松元・他(2010)を参考に気温と日射量を指標とするTRモデルを用いた手法を用いたが、御嶽山アメダス(標高2195m)には融雪量推定に必要な気温及び日照時間の観測項目がないため、山麓で最も近い(約12km)開田高原アメダス(標高1130m)の気温及び日照時間データを用いることとし、2点の標高差(1065m)による影響を除去するため、河島・他(2016)が2015年及び2016年融雪期に田の原で観測した気象データと山麓の開田高原アメダスの気象データの比較により補正を行った。

 本発表では、田の原傾斜計の南北成分データに宮村・他(2017)の手法を適用した結果を報告する。南北成分には毎年春から夏にかけて大きな季節変化が認められるが、同手法を適用したところある程度除去することができた。このことから、季節変化には降水の影響はほとんど含まれず、融雪の影響が大きいことが明らかとなった。南北成分を補正した結果、2014年8月半ば頃から始まる北側上がりの傾斜変化を検出した。すでに検出した東西成分の傾斜変化と併せて、降水及び融雪補正後の傾斜データを再検討すると、8月中旬に北側上がりの傾斜変化が始まり、9月10日頃からは北西上がりの傾斜変化へと徐々に変化していったことが明らかとなった。同様な傾斜変化は、調査期間中(2011年4月~2017年9月)の他の時期には確認できなかった。

 今回、降水及び融雪補正後の傾斜計データで検知した傾斜変化について、2つの先行研究と関連させながら考察を行った。まず、Kato et al (2015)による噴火前後における山頂直下の震源分布を参考に、NNW-SSE走向を持つ開口クラックモデルを仮定してその上端を2kmから1kmまで浅部へ移動させた場合、傾斜変化が北側上がりから北西側上がりへ変化するパターンを確認することができた。次に、Miyaoka and Takagi (2016)によるスタッキング手法を用いたGNSS基線長解析により、長基線の変化が8月中旬から、短基線の変化が9月上旬から始まっていたことが確認され、変動源が深部から浅部へ移動した可能性を示唆する結果が得られている。これらの先行研究の結果が今回の降雨及び融雪補正後の傾斜計データから検出した傾斜変化と整合的であり、今回用いた降雨及び融雪補正の手法の有効性を示すものと考えられる。

参考文献
 Kato A, Terakawa T, Yamanaka Y, Maeda Y, Horikawa S, Matsuhiro K, Okuda T (2015) Preparatory and precursory processes leading up to the 2014 phreatic eruption of Mount Ontake, Japan. Earth Planets Space 67:111. doi:10.1186/s40623?015?0288?x
 Miyaoka K, Takagi A (2016) Detection of crustal deformation prior to the 2014 Mt. Ontake eruption by the stacking method, Japan. Earth Planets Space 68:60. doi:10.1186/s40623-016-0439-8
 河島克久・伊豫部勉・松元高峰・佐々木明彦・鈴木啓助(2016):冠雪活火山における積雪期火山防災情報プラットフォームの構築,寒地技術論文・報告集,32,80-84.
 木村一洋・露木貴裕・菅沼一成・長谷川浩・見須裕美・藤田健一(2015):タンクモデルによる体積ひずみ計データの降水補正について,験震時報,78,93-158.
 木村一洋・中橋正樹(2015):御嶽山田の原の傾斜計東西成分の降水補正(1),日本地球惑星科学連合2015年大会予稿集,SVC45-P24.
 木村一洋・河島克久・松元高峰・佐々木明彦・伊豫部勉・中橋正樹・小林昭夫(2016):御嶽山田の原の傾斜計東西成分の降水補正(2),日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集,SVC47-P13.
 松元高峰・河島克久・外狩麻子・島村誠 (2010): 気温・日射量を指標とする表面融雪量モデルと積雪層浸透モデルとを組 み合わせた積雪底面流出量の推定,雪氷,72, 255-270.
 宮村淳一・木村一洋・中橋正樹・河島克久・松元高峰・伊豫部勉・佐々木明彦(2017):火山監視用傾斜計に現れる融雪の影響,日本火山学会講演予稿集,P050.
 気象庁(2014):特集1.2014年9月の御嶽山の噴火,平成26年10月地震・火山月報(防災編),54-61.