[SVC38-P35] GNSS観測と精密水準測量から推定される霧島硫黄山の地下圧力源
キーワード:硫黄山 、GNSS観測、精密水準測量
硫黄山はここ数年火山活動が活発な霧島火山の活火山の一つである。2013年12月以降火山性地震が多く発生してから火山活動が活発化し始め、2015年12月には地表に熱異常域が形成され噴気活動が始まり、2018年4月には水蒸気噴火も発生するなど、熱水活動の盛んな火山である。森田(2018)において、2015年6月~2017年10月に実施された鉛直方向の変位を検出できる水準測量で捉えられた地殻変動は、硫黄山噴気域の東150mの地表からの深さ約700mの地点の球状圧力源の増圧によるものと推定された。この深さは、MT探査によって推定された粘土層と考えられる難透水層の下面(Tsukamoto et al., 2018)に一致しており、粘土層がキャップロックとなり深部から上昇してきた熱水がその下面に溜められ、圧力をためているのではないかと推定された。ただ、森田(2018)の圧力源は水平変動が考慮されていない。水準測量で検出した上下変動にGNSS観測によって検出された硫黄山周辺の水平変動を用いて、硫黄山のより詳細な圧力源モデルの推定を試みた。
噴火前の期間①(2017年10月~2018年3月)では、硫黄山を中心とする最大約1.5㎝の隆起と硫黄山の噴気域を中心とする放射状の水平変動が捉えられた。この地殻変動のパターンから圧力源を球状圧力源と仮定して、標高補正茂木モデルを用いてモデリングを行った。その結果、硫黄山の直下深さ780mに位置する球状圧力源の4.7×10⁴m³の体積増加と推定された。深さはTsukamoto et al.(2018) で推定された粘土層の下面の深さに概ね一致しており、噴火前に粘土層の下面で圧力源が膨張していたことが考えられる。噴火後の期間②(2018年6月~2018年10月)においては、硫黄山を中心とする最大3.5㎝の上下変動や硫黄山の山体を中心とする大きい水平変動が捉えられた。この変動の圧力源を推定した結果、ここでも硫黄山の直下深さ720mに位置する球状圧力源の5.6×10⁴m³の体積増加によるものと推定された。よって、噴火の後も粘土層の下面において球状圧力源が膨張を続けており、噴火が再び発生する可能性が高まっていると考えられる。
期間①の山体のGNSS観測点には球状圧力源の体積増加では説明できない水平変動が捉えられていた。これは粘土層下の圧力源の体積増加に伴って、熱水が粘土層の亀裂を通って上昇し、山体浅部の間隙水圧や温度を上昇させたことで、地殻が膨張したものであると考えられる。また、期間①と期間②で推定したそれぞれの圧力源位置を比較したところ、噴火を挟んで北西へ約150m程度移動していた。噴火後の硫黄山では新しい熱異常域の形成や噴気活動の活発化などが山体の西側で確認されており、硫黄山の火山活動が西側へ遷移する様子を反映しているものであると考える。さらに、これらのモデルによる硫黄山周辺の連続観測点(硫黄山から2~3㎞)の水平変位と実際に観測された水平変動を比較したところ、モデルによる変位を上回る水平変動が捉えられていた。このことから硫黄山周辺に別の圧力源が存在する可能性を考え、霧島全域のGNSS連続観測点の変動データを用いて圧力源のモデリングを行ったところ、これらの地殻変動は硫黄山から約5㎞離れたえびの岳付近の深さ約7kmに位置する球状圧力源の体積増加によるものであると推定された。この圧力源はNakao et al. (2013) で推定された新燃岳の2011年噴火の前後の地殻変動源と整合的で、新燃岳のマグマだまりの体積変化によるものと考えられる。
よって硫黄山周辺の地殻変動は、粘土層下の熱水だまり、熱水の上昇に伴う山体浅部の地殻変動源、新燃岳のマグマだまりの3つの圧力源で説明することができることが分かった。
噴火前の期間①(2017年10月~2018年3月)では、硫黄山を中心とする最大約1.5㎝の隆起と硫黄山の噴気域を中心とする放射状の水平変動が捉えられた。この地殻変動のパターンから圧力源を球状圧力源と仮定して、標高補正茂木モデルを用いてモデリングを行った。その結果、硫黄山の直下深さ780mに位置する球状圧力源の4.7×10⁴m³の体積増加と推定された。深さはTsukamoto et al.(2018) で推定された粘土層の下面の深さに概ね一致しており、噴火前に粘土層の下面で圧力源が膨張していたことが考えられる。噴火後の期間②(2018年6月~2018年10月)においては、硫黄山を中心とする最大3.5㎝の上下変動や硫黄山の山体を中心とする大きい水平変動が捉えられた。この変動の圧力源を推定した結果、ここでも硫黄山の直下深さ720mに位置する球状圧力源の5.6×10⁴m³の体積増加によるものと推定された。よって、噴火の後も粘土層の下面において球状圧力源が膨張を続けており、噴火が再び発生する可能性が高まっていると考えられる。
期間①の山体のGNSS観測点には球状圧力源の体積増加では説明できない水平変動が捉えられていた。これは粘土層下の圧力源の体積増加に伴って、熱水が粘土層の亀裂を通って上昇し、山体浅部の間隙水圧や温度を上昇させたことで、地殻が膨張したものであると考えられる。また、期間①と期間②で推定したそれぞれの圧力源位置を比較したところ、噴火を挟んで北西へ約150m程度移動していた。噴火後の硫黄山では新しい熱異常域の形成や噴気活動の活発化などが山体の西側で確認されており、硫黄山の火山活動が西側へ遷移する様子を反映しているものであると考える。さらに、これらのモデルによる硫黄山周辺の連続観測点(硫黄山から2~3㎞)の水平変位と実際に観測された水平変動を比較したところ、モデルによる変位を上回る水平変動が捉えられていた。このことから硫黄山周辺に別の圧力源が存在する可能性を考え、霧島全域のGNSS連続観測点の変動データを用いて圧力源のモデリングを行ったところ、これらの地殻変動は硫黄山から約5㎞離れたえびの岳付近の深さ約7kmに位置する球状圧力源の体積増加によるものであると推定された。この圧力源はNakao et al. (2013) で推定された新燃岳の2011年噴火の前後の地殻変動源と整合的で、新燃岳のマグマだまりの体積変化によるものと考えられる。
よって硫黄山周辺の地殻変動は、粘土層下の熱水だまり、熱水の上昇に伴う山体浅部の地殻変動源、新燃岳のマグマだまりの3つの圧力源で説明することができることが分かった。