日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] 火山の熱水系

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 国際会議室 (2F)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院)、大場 武神田 径

09:15 〜 09:30

[SVC39-02] 箱根火山における2015年噴火後の噴気・温泉活動と地震地殻変動

*萬年 一剛1原田 昌武1行竹 洋平1菊川 城司1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:箱根、深部低周波地震、山体膨張、噴気、温泉、火山活動

箱根火山では2015年にごく小規模な水蒸気噴火が発生した.この噴火の噴出中心となった大涌谷では,噴火前に顕著な噴気活動がほとんど無かったが,噴火に関連して20以上の火口・噴気孔が新たに開口し,現在も活動中である.我々は噴火後の火山活動を監視するため,2週間に1回程度の頻度で,これらの噴気孔の噴気温度と,周辺に湧出する温泉の化学組成の測定を実施している.本発表では,その結果と,箱根火山の地震地殻変動との関連について述べる.



1 噴気温度

 2015年噴火に関連して形成された噴気孔は20以上あるが,そのうちアクセス可能で主要な10の噴気孔についてこれまで温度測定を行ってきた(萬年・ほか,2019).これらの噴気孔は噴火直後,遠望観測による限りいずれも単一の開口部からなる単純な形態をしていた.しかし,2015年末以降,複数の噴気塔を形成したり,噴気場所が移動するようになった.このため,測定開始当初から同一の開口部で安定した測定を実施出来ているのは,15-12噴気孔(2017年5月1日〜)と16-1噴気孔(2018年1月11日〜)に限られている.

15-12噴気孔の噴気温度は2017年8月頃まで150 ℃を超えていたが,徐々に低下し2018年末には120 ℃台前半にまで低下した.また,16-1噴気孔の噴気温度は2018年2月には140 ℃前後あったが,やはり徐々に低下し,2018年末には130 ℃ 台前半にまで落ちた.

 一方,15-1および15-14B噴気孔は,噴気の出口が安定していないものの,高温の噴気が観測され続けており,両者とも2018年12月末でも150 ℃台前半を記録している.しかし,高温の噴気を探索するのが難しくなっていることや,閉塞する噴気孔もあることなどから,全体としてみると噴気の温度や勢いは低下傾向にあると考えられる.なお,これまでに観測された噴気の最高温度は,15-1で2017年8月23日に記録した162.0℃である.



2 温泉・表流水の化学組成

 大涌谷地域では,13点の自然湧泉や表流水,造成温泉の化学分析を繰り返し実施している(菊川・ほか,2019).このうち,噴出中心を集水域とする大涌沢の沢水については,2015年の火山活動の活発化に関連して塩化物イオンの濃度が,Cl/SO4比で1.0前後まで上昇したことが報告されている(Mannen et al. 2018).塩化物イオンの濃度は2017年に入る頃までには低下したが(Cl/SO4比で0.2程度),2017年11月から翌年1月にかけて塩化物イオンの濃度がやや上昇した(Cl/SO4比で0.3程度).また,52号蒸気井の造成温泉は2017年4月下旬から10月下旬にかけて電気伝導度の上昇,pHの低下が顕著に見られたほか塩化物イオン濃度も上昇した.

 大涌谷地域の建物の床下からでている自然噴気の繰り返し測定では(Mannen et al. 2018),噴火後,時間とともにCO2/H2S比が徐々に低下をしている.2017年は低下の傾向が一時的に減衰したようにも見えるが明瞭ではない.一方,代田ほか(2018)は大涌谷の北にある上湯噴気地で,噴気のCO2/H2S比が2017年6月頃に上昇したことを報告している.



3 2017年の地震地殻変動と噴気・温泉活動

 箱根火山では熱水活動の活発化に先行して群発地震活動や,深部低周波地震活動や,山体を挟む基線長の増加が観測されてきた(Harada et al. 2018; Mannen et al. 2018).2015年噴火の後,群発地震と呼べるほど活発な地震活動は無かったが,2017年4月下旬から5月上旬にかけて金時山付近で地震活動がやや活発になった(行竹・ほか,2018).深部低周波地震は,Matched Filter法による解析で(行竹, 2017),これに先立つ2017年4月中旬頃に活発になったことがわかった.また,基線長の増加は同年5月初めから11月終わり頃に認められ,小田原─裾野2間で約12mmの伸長が認められた(2015年の活発時の伸長量は約21mm).これらの時期,噴気の温度に顕著な変化は認められないが,前述の通り造成温泉の成分変化が4月下旬以降,噴気地帯の表流水の塩化物イオン濃度の上昇が11月以降に認められ,熱水活動の活発化が示唆される.

 以上のように,箱根火山は2015年噴火後,顕著な活発化は見られないものの,2017年には2001年の噴気異常や2015年の噴火に類似した活動を非常に微弱ながらも見せており,何らかの活動活発化が疑われる.一方,この活動は地震活動がこれまでに比べて大幅に小さい点や,基線長の増加速度が顕著に低い点が,これまでの活動とは大きく異なる.また,代田・ほか(2018)は,上湯場噴気地でのCO2/H2S比上昇量も2017年のそれは2015年や2013年よりかなり小さく,上昇後の減衰も緩やかであることを指摘している.以上のように2017年の活動は,それ以前の類似した活動と強度や様態が異なるが,これはマグマ・熱水システムが噴火で変化したことを反映している可能性があり注目される(代田・ほか,2018).



【文献】代田・ほか(2018)火山学会秋季予稿 P113.:Harada et al. (2018) EPS 70, 152;菊川・ほか(2019)温地研報告, 50, 69.:Mannen et al. 2018 EPS 70, 68.:行竹(2017)温地研報告 49, 1.:行竹・ほか(2018)温地研観測だより 68, 47.