日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] 火山の熱水系

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院)、大場 武神田 径

10:45 〜 11:00

[SVC39-07] マグマ起源熱水の多様性の成因の再検討

*篠原 宏志1 (1.産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

キーワード:火山ガス、温泉、熱水

本発表では、地下のマグマを起源として形成されるマグマ性熱水系に生ずる、火山ガス、温泉水、地熱水の多様な化学組成が生ずる原因について、特に主成分であるCl/S比に着目して、従来のモデルを踏まえ、再評価を行う。マグマ性熱水系の主要な温泉(熱水)はGiggenbach(1996)により、1)酸性Cl-SO4泉(熱水)、2)中性NaCl泉(熱水)、3)重炭酸泉(熱水)、4)蒸気加熱型酸性硫酸泉(熱水)に大別される、その成因を論じられている。酸性Cl-SO4熱水は、マグマから放出されたマグマ性ガスの冷却・凝縮により生じる。その酸性熱水が温度の低下に伴う岩石との反応の結果、中和・含硫黄鉱物の析出により、中性NaCl熱水が生ずる。重炭酸熱水と酸性硫酸熱水は、深部の熱水の気液分離により生じたCO2もしくはH2Sが中性NaCl熱水や地下水に混合し生じたものである。そのため、熱水の多様性を生ずる主要な過程は、マグマ性ガスの凝縮により生じた酸性熱水から、温度低下と熱水-岩石反応により中性NaCl熱水の生成するであると考えられる。しかし、これらのモデルでは考慮されていない、いくつかの規制要因があり、それらの影響を検討する必要がある。
熱水―岩石反応は温度のみならず圧力にも依存し、岩石と平衡にある熱水中のHCl濃度は低圧下で大きく高圧化で小さい(Shinohara and Fujimoto, 1994; Botcharnikov et al., 2015)。そのため、高圧条件下で放出されるマグマ性の熱水は、地表で観測される火山ガスから生成される酸性Cl-SO4熱水より中性NaCl熱水に類似したものと考えられる。また、我が国の高温火山ガスの平均値はCl/Sモル比は0.2であるが(Shinohara, 2013)、メルト包有物組成から推定されるマグマ中のCl/S比はより大きく、玄武岩質マグマで0.5前後、より珪長質のマグマでは10前後である。そのため、マグマの固化によりその揮発性物質の大部分が熱水として放出された場合には、火山ガスや酸性Cl-SO4熱水で見られるCl/S比に比べ、はるかに大きなCl/S比を持つ組成となると推定される。そのため、酸性Cl-SO4熱水(およびその元となる火山ガス)と中性NaCl熱水は、マグマから放出される条件が異なる別の起源を持つ可能性がある。我が国の温泉・熱水のpHの頻度分布を調べると、酸性と中性の二つのグループに分かれ、pH4-5の温泉は少ない(村岡他、2007)。この頻度分布は、中性NaCl熱水が、酸性熱水の中和や希釈とは異なる起源を有していることと調和的である。