日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] 火山の熱水系

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

[SVC39-P08] 伊豆大島火山カルデラ内坑井温度プロファイルによる伝導・対流熱伝達の推定

*鬼澤 真也1 (1.気象研究所 火山研究部 第一研究室)

キーワード:伊豆大島火山、温度プロファイル、熱流束、地下水

伊豆大島火山では1998年に東京大学地震研究所によってカルデラ内に1,000 m深の坑井が掘削されている.地下水面以深の温度プロファイルは0.28 ℃/mの大きな地温勾配を示すとともに,上昇流の存在を示唆するパターンが認められており,伊豆大島火山山体中心部の熱・流体移動を推察する上で貴重なデータである.ここでは,本坑井の温度プロファイルデータから伝導・対流熱伝達量の推定を試みる.

本坑井は三原山の西方およそ1 kmのカルデラ内に位置する.坑口標高は547 m,孔底が海抜下453 mである.本坑井は,「後カルデラ及び先カルデラ新期山体」「先カルデラ古期山体」「基盤」という本地域の標準的な層序を貫いている.「先カルデラ新期山体」と「先カルデラ古期山体」との境界は概ね海水準であり,海抜下250 m以深から孔底までが「基盤」に相当する(中田・他, 1999).

地下水面は海抜36 mに存在し,これより浅部の約500 mでは厚い不飽和層が発達している.温度プロファイルの特徴はこの地下水位の上下で分けられる.日射等の季節変動の影響を受けている地表面付近を除き,深さおよそ50-350 m(海抜約500-200 m)では,16-17℃と一定している.これ以深ではおよそ37℃の地下水面まで温度が徐々に上昇する.この下に凸の温度プロファイルは天水浸透による強い下降流の存在を示唆する.一方,地下水面より深部では約0.28 ℃/mの大きな温度勾配があり,孔底で173.3 ℃に達する.温度勾配は一定ではなく,2つの上に凸のパターンが認められ,それぞれ上昇流の存在を示唆する.これら2つの深度は,「先カルデラ古期山体」及び「基盤」に対応している.

地下深部からの伝導・対流熱伝達の情報を抽出するために,地下水面以下の飽和領域について温度プロファイルデータの解析を行った.ここで,観測された温度勾配は岩相とも相関しているようにも見える.有効熱伝導率の違いが見掛け上の温度プロファイルパターンを形成している可能性もあるため,この影響を補正しなければならない.本坑井では,坑井内重力測定により10m毎の区間密度が推定されていることから,空隙を持たない岩石密度及び孔隙水密度を仮定することにより,空隙率を推定できる.さらに推定された空隙率から,Robertson (1988)による玄武岩質岩石のためのパラメータを用い区間毎の有効熱伝導率を推定し,この影響を補正した.

1次元定常鉛直流を仮定し温度プロファイルから伝導・対流熱伝達の推定を行った.対象深度は「先カルデラ古期山体」のうち火山砕屑岩が卓越する上部及び「基盤」の2区間である.「先カルデラ古期山体」では,ペクレ数が0.91と推定され,伝導伝熱と対流伝熱とがほぼ同等である.伝導,対流熱流束,体積流量の推定値はそれぞれ0.45-0.56 W/m2,0.41-0.51 W/m2,地下水の体積流量は(1.42-1.78)×10-6 m/sである.一方,「基盤」においては,ペクレ数が0.31-0.41であり伝導伝熱が卓越する結果が得られた.伝導,対流熱流束,体積流量の推定値はそれぞれ0.32-0.39 W/m2,0.12-0.13 W/m2,地下水の体積流量は(4.71-4.98)×10-7 m/sである.

伊豆大島の地殻熱流量については,これまで北西海岸沿いの坑井温度プロファイル,岩石熱伝導率から,「基盤」に相当するおいて平均的地殻熱流量の約3倍となる0.2 W/m2の伝導伝熱が推定されいる(Honda et al., 1979).カルデラ地域の本坑井で推定された「基盤」での伝導伝熱はこの約1.5から2倍に相当し,これに対流の効果が加わっている.仮にこれらの熱流束を100 km2の範囲(~全島スケール)に当てはめると、20-51 MWに相当する.