日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

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[U-05] 地球惑星科学の進むべき道9:大型研究計画とマスタープラン2020

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 101 (1F)

コンビーナ:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、春山 成子(三重大学大学院生物資源学研究科共生環境学専攻)、藤井 良一(情報?システム研究機構)、川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、座長:川幡 穂高田近 英一

14:08 〜 14:31

[U05-08] 宇宙・地球研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムの構築

★招待講演

*小宮 剛1 (1.東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

キーワード:宇宙・地球研究資料、アーカイブとキュレーション

日本で近代科学が産声をあげて約150年、この間、日本の研究者は公的資金を用いて国内外から、非常に多くの地球試料や隕石、地質・地形情報など(宇宙・地球研究資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究のために資料を保管し、キュレーションするといった設備の整備が極めて立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い試料や大きな発見につながった科学的遺産試料でさえ放置・紛失・廃棄されてきた。さらに、開発や紛争などによって試料採取が不可能になるケースや各国で岩石・生物・化石試料の採取や輸出が制限されるケースが年を追うごとに増加し、研究試料の確保の困難が浮き彫りになってきた。

 しかし、カンブリア爆発を創出したバージェス頁岩や最近注目を集める希土類元素に富む深海泥の研究は、30〜50年もの長い間、公的機関に保管された試料の研究から始まっている。さらに、現時点では不可能な古代ゲノム研究、岩石・化石試料の超微量分析、東日本地震を引き起こした断層岩の極微量・微小解析なども、急速に進歩する研究技術の進展を考えると、近い将来可能となることが期待されるが、その時には対象の試料を確保することがもはやできないといった問題に直面することが危惧される。

 また最近、科学の社会的還元や信頼性の保証のため、論文やデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性がヨーロッパ諸国から強く唱えられ、今や中国さえもそのような国際的な取り組みに主体的に参加する大きな潮流が生まれている。しかし、日本では、このような世界的動向に主導的に参画するための基盤的設備が立ち遅れてしまっている。

 我々は、現在、分散保管されている宇宙・地球研究資料を一つのプラットフォームでアーカイブし、公開・キュレーションすることと、それらを保管する施設を建設することを提案する。過去に採取した試料を保管することは一見、生産性が無く、浪費と見なされがちであるが、上述の深海泥を採取するには30以上の航海を必要とし、多大な費用がかかり、今や現実的でない。さらに、基本記載の済んだ資料は研究の進展を迅速にする。つまり、将来の研究のために資料を保管することは金銭的にも十分見合う投資となる。そこで、我々はそのような保管・頒布体系を早急に構築することで、100年後を見据えた科学の発展に寄与することを目指す。

 実施主体:産総研・地質調査所。提案・支援機関:地質学会、国立極地研究所、国立科学博物館、海洋研究開発機構、神奈川県立博物館、各大学の地球惑星関連専攻、各自然史系博物館など。事業期間は10年間で、その後は地質調査所の敷地内で保管する。費用は、施設費に100億円、アーカイブ化のため、各大学に人員を配置する人件費として200億円を見込む。