日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

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[U-05] 地球惑星科学の進むべき道9:大型研究計画とマスタープラン2020

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 101 (1F)

コンビーナ:田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、春山 成子(三重大学大学院生物資源学研究科共生環境学専攻)、藤井 良一(情報?システム研究機構)、川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、座長:田近 英一春山 成子

16:16 〜 16:38

[U05-13] 戦略的火星探査:周回・探査技術実証機による火星宇宙天気・気候・水環境探査計画

★招待講演

*関 華奈子1渡部 重十2中本 泰史3寺田 直樹4山崎 敦5松岡 彩子5臼井 寛裕5関根 康人3藤田 和央5横田 勝一郎6笠原 慧1斎藤 義文5中川 広務4熊本 篤志4前澤 裕之7火星宇宙天気・気候・水環境探査計画 検討チーム (1.東京大学大学院理学系研究科、2.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻、3.東京工業大学、4.東北大学大学院理学研究科、5.宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、6.大阪大学大学院理学研究科、7.大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学科)

キーワード:火星、探査、マスタープラン、宇宙天気、宇宙気候、水

本計画の前身は、地球電磁気・地球惑星圏学会から提案し、マスタープラン2017に計画番号79学術領域番号24-2として掲載された「火星における宇宙天気・宇宙気候探査計画」である。前回の提案後、日本惑星科学会他、関連分野との分野横断的な議論を経て計画を発展させてきた結果、今回、地球電磁気・地球惑星圏学会と日本惑星科学会の両学会会長の連名で大型研究計画として提案させていただくものである。
今後20年程度の太陽系探査において、太陽系における生命生存可能環境の形成と進化の探求が重要な科学目標となっている。その中で火星は、表層に安定に水が存在するハビタブルな環境を保持していた地球外太陽系天体として、比較惑星学および宇宙生命学的研究を行う上で理想的な天体といえる。2030 年代には国際協働による火星サンプルリターンが計画されており、そこで日本が主導的な役割を果たすためにも、太陽の影響を受ける大気と浅部地下環境の共進化過程に着目した我が国独自の火星探査の実施が喫緊の要請である。本計画は、国際協働宇宙探査に向けた我が国の戦略的火星探査の重要な一歩として、周回・探査技術実証機を組み合わせ、火星における水の分布・貯蔵に着目して、太陽変動が火星表層環境に及ぼす影響の解明、および将来の着陸探査に向けた詳細観測と技術実証を目的とした火星宇宙天気・気候・水環境探査計画である。特に、極端な太陽変動への瞬時応答を調べることで、過去40億年にわたり宇宙への大気散逸が火星の気候変動にどのような影響を及ぼしてきたのかを理解するとともに、火星をとりまく宇宙環境の把握と、将来の着陸探査に必要な技術獲得と表層・浅部地下水環境の調査を行う。
 約40 億年前の火星は海を持ち湿潤な気候であったと推定される一方で、現在の火星は寒冷乾燥気候の惑星である。このような気候変動を引き起こすには、表層を覆っていた海水と1気圧分程度のCO2大気が地下に貯蔵もしくは宇宙空間に流出して表層環境から取り除かれる必要がある。火星宇宙気候研究の重要課題として、水とCO2大気を宇宙空間に逃がすことができる物理機構の解明が挙げられる。現在の火星はグローバルな固有磁場を持たず、太陽風と大気が直接相互作用し、これまでに、NASA の火星探査機MAVEN 等によって火星大気散逸現象を含む火星圏環境について多くの基本的描像が得られつつある。特に、惑星間コロナ質量放出(ICME)時の大気散逸率の増加や太陽高エネルギー粒子(SEP)によって引き起こされるオーロラ、残留磁化による誘導磁気圏の非対称、水素散逸率の短期変動などの、最近のMAVEN による発見は、火星周辺の宇宙環境や大気散逸率に太陽変動・固有磁場・下層大気や表層からの水輸送が大きな影響を与えうることを示した。また、将来の火星有人探査にとっても、火星周辺の宇宙放射線環境把握は重要であり、その太陽変動との関係を理解することは、火星宇宙天気研究の重要な課題となっている。すなわち、本計画で提案している、新しく発見された火星オーロラによる高エネルギー粒子環境の可視化と、ICMEなどの極端な太陽変動への大気散逸現象の応答の観測は、従来の統計的描像から脱却し、過去の太陽で頻発した極端現象への瞬時応答の理解をもたらす過去への演繹の切り札として、火星宇宙天気・気候研究にブレークスルーをもたらすと期待されている。
 また、現在の水循環を理解するのみならず、生命探査や有人探査を行う上でも、液体の水が現在の火星に存在するかを明らかにすることは優先度の高い課題である。現在の火星において、斜面上に現れる暗い筋模様(RSL)が発見されたことにより、その成因が流水なのか、水とは関係ない重力流なのか、その成因の解明が上記課題の解決に直結する重要事項となっている。RSLの成因を明らかにする鍵の一つは、本計画で提案している高空間解像度での地表画像と表面スペクトルの取得、および形成地点付近での温度・湿度の計測である。また、RSLの成因が流水である場合、地表浅部における帯水層・氷層の存在が期待される。RSLは火星の中・低緯度に分布しており、周回機によるレーダーサウンディングや高空間解像度撮像・分光観測を組み合わせることによって、広域的な地下帯水層・氷層の空間分布を明らかにするとともに、将来の着陸探査の候補地点選定にも貢献できる。
 このように本計画は、近年の先行火星探査における新発見も踏まえ、ハビタブル惑星の理解に向けて、周回・探査技術実証機により火星における宇宙天気・気候・水環境を探ることと,火星総合探査に向けた技術実証を目指している。具体的には、3つの達成目標を掲げ、その実現に向けて11の観測項目を設定している。本講演では、学術会議の評価の観点に従い、学術的意義を中心に計画の詳細について報告する予定である。