11:55 〜 12:10
[U07-06] 中部ネパールヒマラヤにおける下刻と埋積にともなう地すべり地形発達 -カタストロフィックな斜面災害を知るー
★招待講演
キーワード:ネパール小ヒマラヤ帯、急速な下刻と埋積、斜面不安定化、谷中谷、最終氷期
地すべりを山地内の重要な地形形成営力と捉える研究も多く進められてきた(防災科研, 1982 ほか多数,日本地すべり学会東北支部, 1992 ).それらは地すべり現象が河川による浸食よりもより面的であり、土砂供給の点で重要であることを明らかにした。しかし後者には編年情報が少なく、炭素年代試料から後氷期の湿潤化に対応したものとしたものも、大きな地すべり地内のどの移動体から採取されたなどの議論がなされていないなど、気候変化との関連づけには大きな議論の余地が残されていた。近年,苅谷(2014)などによる大規模地すべりの編年資料が蓄積しつつあるが,流域の地形発達という観点での議論はまだ少ない状況ではなかろうか.
ここでは,演者が行ってきたネパール・大ヒマラヤ山麓~小ヒマラヤ帯における地すべり発達を河谷沿いに発達する河成段丘分布および編年を関連づけながら,急速な下刻・埋積そして更なる下刻の繰り返しによって発生している地変について報告する.
ネパール中部・マナスル山塊切るBudhi Gandhaki川が小ヒマラヤに流れこむ山麓Arghat付近には,現河床から比高150-170m程度の位置に赤色化した土層を載せる高位段丘群が広く発達する.高位段丘群のうちH2としたこの地域で最も広く発達するものは,OSL年代から2万年前頃の形成と考えられ,谷底から段丘頂部まで土石流性堆積物を含む礫質堆積物から構成される.Arghatから上流側には段丘面群は断片的に残存するが,さらに上流側には谷中谷が発達しその遷急線は,投影断面図上で高位段丘群にほぼ連続する(図1).
本地域にも地すべり地形は多数発達するが,変位が谷中谷の肩を挟んでその上位だけで止まっているもの(ここでは高位地すべりと称する)も見受けられる.一部では,高位段丘の背後に高位地すべりが見られるものの,段丘そのものは変位を受けていないものもある.従って,高位地すべりは高位段丘群の深い谷を掘り込んだ時期に活発に活動したが,その後の谷の埋積後(高位段丘礫層の流入後)安定化した.そしてさらなる下刻に伴い,現在河床に沿った位置で新たなすべり面を形成し活動しているものが多いと考えられる.
このように,ヒマラヤ山麓地域では最終氷期以降,数万年の時間オーダーで急激な下刻や埋積そして更なる下刻が繰り返され,それに伴う斜面の不安定化にともなう斜面変動も発生している.高位地すべりについても,現在安定率が平衡して動きが停止しているようなものもある.しかし,谷中谷の遷急線付近では重力性のクリープ変形を呈しているものも少なからず,地震や豪雨に伴っても再活動推察される.その際もっとも危惧される地変は,Budhi Gandhaki本線の河道閉塞であり,その決壊・土石流である.西側のマルシャンディ川では小ヒマラヤ内を30km以上流下した厚さ50m以上の4千年頃の土石流堆積物も認められる.
さまざまな時間スケールで発生している重力性斜面変形や近年の気候変化の複合現象として,予想を超えたカタストロフィックな斜面災害が今後も発生する可能性を,我々は記憶しておくべきであろう.
ここでは,演者が行ってきたネパール・大ヒマラヤ山麓~小ヒマラヤ帯における地すべり発達を河谷沿いに発達する河成段丘分布および編年を関連づけながら,急速な下刻・埋積そして更なる下刻の繰り返しによって発生している地変について報告する.
ネパール中部・マナスル山塊切るBudhi Gandhaki川が小ヒマラヤに流れこむ山麓Arghat付近には,現河床から比高150-170m程度の位置に赤色化した土層を載せる高位段丘群が広く発達する.高位段丘群のうちH2としたこの地域で最も広く発達するものは,OSL年代から2万年前頃の形成と考えられ,谷底から段丘頂部まで土石流性堆積物を含む礫質堆積物から構成される.Arghatから上流側には段丘面群は断片的に残存するが,さらに上流側には谷中谷が発達しその遷急線は,投影断面図上で高位段丘群にほぼ連続する(図1).
本地域にも地すべり地形は多数発達するが,変位が谷中谷の肩を挟んでその上位だけで止まっているもの(ここでは高位地すべりと称する)も見受けられる.一部では,高位段丘の背後に高位地すべりが見られるものの,段丘そのものは変位を受けていないものもある.従って,高位地すべりは高位段丘群の深い谷を掘り込んだ時期に活発に活動したが,その後の谷の埋積後(高位段丘礫層の流入後)安定化した.そしてさらなる下刻に伴い,現在河床に沿った位置で新たなすべり面を形成し活動しているものが多いと考えられる.
このように,ヒマラヤ山麓地域では最終氷期以降,数万年の時間オーダーで急激な下刻や埋積そして更なる下刻が繰り返され,それに伴う斜面の不安定化にともなう斜面変動も発生している.高位地すべりについても,現在安定率が平衡して動きが停止しているようなものもある.しかし,谷中谷の遷急線付近では重力性のクリープ変形を呈しているものも少なからず,地震や豪雨に伴っても再活動推察される.その際もっとも危惧される地変は,Budhi Gandhaki本線の河道閉塞であり,その決壊・土石流である.西側のマルシャンディ川では小ヒマラヤ内を30km以上流下した厚さ50m以上の4千年頃の土石流堆積物も認められる.
さまざまな時間スケールで発生している重力性斜面変形や近年の気候変化の複合現象として,予想を超えたカタストロフィックな斜面災害が今後も発生する可能性を,我々は記憶しておくべきであろう.