[AAS02-P04] 変動する気候において生命、財産、社会インフラを守るための日本域気象再解析の戦略について
キーワード:領域再解析、数値予報、レジリエンス、変動する気候
近年の相次ぐ極端な気象を経験することで、変動する気候に備えていくことの重要性が社会により理解されるようになってきた。この備えにはハード対策とソフト対策があり、その双方に領域再解析が重要な役割を果たすことができる。
領域再解析は全球再解析の枠組みのもとで、過去の観測データを用いて領域の4次元データ同化システムを回すことで実行することができる。この領域再解析にはかなりの計算資源や人的資源が必要であり、領域再解析が私たちの社会にどの程度のベネフィットをもたらすのかを考えることが必要である。
すでに気候モデルの専門家たちはd4PDF (Mizuta et al. 2017)など巨大アンサンブルによる将来予測実験を通じて、河川堤防や防潮堤などのハード対策の計画に貢献しつつある。気候変動への適応策が進められる中、d4PDFの結果は農業、水文、リスク管理など、様々な分野にも使われている。気候モデルの利用者たちは、シミュレーション結果を将来計画の意思決定に活用しつつある。ハード対策では、予算規模の大きさや長期間にわたる整備が必要であることから、情報の信頼度をしっかり確認しつつ進めていく必要がある。気候シミュレーションの信頼性を確認する一つの選択肢は、シミュレーション結果と自然変動の観測結果を比較することである。地域での適応策に肝要な地域の気候変動においては、全球の再解析よりも領域の再解析がこの比較において重要な役割を果たす。
領域再解析は気候変動の把握だけでなく、リスク管理やレジリエンスの強化にも重要な役割を持つ。領域再解析は、過去の顕著な現象について事実に基づいたシナリオを提供する。また、再解析は領域モデルによる予報の初期条件も提供し、これによる過去の予報は再予報と呼ばれる。特定の地域から見ると、気象による災害の頻度は一般に稀である。例えば、市町村単位で極端な現象への備えをするためには、長期間の再解析や再予報を用いて過去の極端現象から学ぶ必要がある。過去現象の再現に最新の数値予報システムを用いると、過去の事例を通じて得られた知見が今後の極端現象について数値予報で予測された時の行動判断に生かされることになる。というのは、極端現象に対する予報の信頼性についての知見を利用者が持つことができるからである。気象予測には大なり小なり誤差が必ず伴うことから、気象分野以外の様々な分野の専門家や利用者が意思決定をする際に、予報の信頼性を彼らが理解していることが極めて重要である。
このように、領域再解析には2つの重要な役割があることがわかる。一つは実際に起きている気候変動を把握し、確認すること、もう一つは過去の極端現象の知見を今後の極端現象への対応に活かすことである。前者の役割では、Fukui et al. (2018)のような手法を選択することが良いだろうし、後者については現業で使われている数値予報システムに近いもので衛星観測などの観測データも活用したものを使う手法を選択したい。防災対応分野や再生可能エネルギー分野が領域再解析・再予報の主要な利用者になるものと考える。
領域再解析の社会へのベネフィットをさらに高めるためには、海洋学、水文学・雪氷学、エネルギー部門、大気化学など様々な分野の専門家やデータ利用者たちとの連携の活性化が重要である。そのためには、d4PDFの活動を通じて発展してきた関係分野、利用者との連携を活用することが鍵となる。
最後に、国際連携の重要性も指摘しておきたい。第一段階としては、過去の観測データを近隣国で交換、共有化することが、各国での領域再解析の活動に貢献することになる。さらには再解析結果を共通する領域で比較することがこれらの国々にとって有益であろう。
Reference
Fukui, S, T. Iwasaki, K. Saito, H. Seko and M. Kunii 2018: A feasibility study of the high-resolution regional reanalysis over Japan assimilating only conventional observations as an alternative to the dynamical downscaling. J. Meteor. Soc. Japan 2018, 565-585
Mizuta, R et al., 2017: Over 5000 years of ensemble future climate simulations by 60 km global and 20 km regional atmospheric models. Bull. Amer. Meteor. Soc. July 2017, 1383-1398
領域再解析は全球再解析の枠組みのもとで、過去の観測データを用いて領域の4次元データ同化システムを回すことで実行することができる。この領域再解析にはかなりの計算資源や人的資源が必要であり、領域再解析が私たちの社会にどの程度のベネフィットをもたらすのかを考えることが必要である。
すでに気候モデルの専門家たちはd4PDF (Mizuta et al. 2017)など巨大アンサンブルによる将来予測実験を通じて、河川堤防や防潮堤などのハード対策の計画に貢献しつつある。気候変動への適応策が進められる中、d4PDFの結果は農業、水文、リスク管理など、様々な分野にも使われている。気候モデルの利用者たちは、シミュレーション結果を将来計画の意思決定に活用しつつある。ハード対策では、予算規模の大きさや長期間にわたる整備が必要であることから、情報の信頼度をしっかり確認しつつ進めていく必要がある。気候シミュレーションの信頼性を確認する一つの選択肢は、シミュレーション結果と自然変動の観測結果を比較することである。地域での適応策に肝要な地域の気候変動においては、全球の再解析よりも領域の再解析がこの比較において重要な役割を果たす。
領域再解析は気候変動の把握だけでなく、リスク管理やレジリエンスの強化にも重要な役割を持つ。領域再解析は、過去の顕著な現象について事実に基づいたシナリオを提供する。また、再解析は領域モデルによる予報の初期条件も提供し、これによる過去の予報は再予報と呼ばれる。特定の地域から見ると、気象による災害の頻度は一般に稀である。例えば、市町村単位で極端な現象への備えをするためには、長期間の再解析や再予報を用いて過去の極端現象から学ぶ必要がある。過去現象の再現に最新の数値予報システムを用いると、過去の事例を通じて得られた知見が今後の極端現象について数値予報で予測された時の行動判断に生かされることになる。というのは、極端現象に対する予報の信頼性についての知見を利用者が持つことができるからである。気象予測には大なり小なり誤差が必ず伴うことから、気象分野以外の様々な分野の専門家や利用者が意思決定をする際に、予報の信頼性を彼らが理解していることが極めて重要である。
このように、領域再解析には2つの重要な役割があることがわかる。一つは実際に起きている気候変動を把握し、確認すること、もう一つは過去の極端現象の知見を今後の極端現象への対応に活かすことである。前者の役割では、Fukui et al. (2018)のような手法を選択することが良いだろうし、後者については現業で使われている数値予報システムに近いもので衛星観測などの観測データも活用したものを使う手法を選択したい。防災対応分野や再生可能エネルギー分野が領域再解析・再予報の主要な利用者になるものと考える。
領域再解析の社会へのベネフィットをさらに高めるためには、海洋学、水文学・雪氷学、エネルギー部門、大気化学など様々な分野の専門家やデータ利用者たちとの連携の活性化が重要である。そのためには、d4PDFの活動を通じて発展してきた関係分野、利用者との連携を活用することが鍵となる。
最後に、国際連携の重要性も指摘しておきたい。第一段階としては、過去の観測データを近隣国で交換、共有化することが、各国での領域再解析の活動に貢献することになる。さらには再解析結果を共通する領域で比較することがこれらの国々にとって有益であろう。
Reference
Fukui, S, T. Iwasaki, K. Saito, H. Seko and M. Kunii 2018: A feasibility study of the high-resolution regional reanalysis over Japan assimilating only conventional observations as an alternative to the dynamical downscaling. J. Meteor. Soc. Japan 2018, 565-585
Mizuta, R et al., 2017: Over 5000 years of ensemble future climate simulations by 60 km global and 20 km regional atmospheric models. Bull. Amer. Meteor. Soc. July 2017, 1383-1398