JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 大気化学

コンビーナ:齋藤 尚子(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)

[AAS07-P14] 全球対流圏オゾンへの対流圏臭素・ヨウ素の影響: CHASERを用いたモデリング研究

*関谷 高志1金谷 有剛1須藤 健悟2,1竹谷 文一1相田 真希1山本 彬友1岩本 洋子3川本 雄大4 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.名古屋大学 大学院環境学研究科、3.広島大学 大学院統合生命科学研究科、4.神戸大学 大学院海事科学研究科)

キーワード:対流圏オゾン、ハロゲン、化学輸送モデル

臭素・ヨウ素触媒サイクルは、対流圏オゾンの重要な付加的消失源であると認識されながらも、多くの化学輸送モデルは対流圏臭素・ヨウ素化合物に関連するプロセスを考慮していない(Young et al., 2018)。そのため、対流圏臭素・ヨウ素化合物の全球規模の影響評価は少数の化学輸送モデルでのみ行われてきたが(e.g., Saiz-Lopez et al., 2014; Sherwen et al., 2016)、臭素・ヨウ素化合物の放出プロセスのモデル表現や放出量推定値に大きな不確実性を残している。本研究では、全球化学輸送モデルCHASER(Sudo et al., 2002; Sekiya et al., 2018)に新たにヨウ素化学反応過程、ハロカーボン放出過程、オゾンを媒介とした無機ヨウ素放出過程(Chang et al., 2004; Carpenter et al., 2013)を実装し、全球対流圏オゾンへの対流圏臭素・ヨウ素化合物の影響を評価した。対流圏臭素・ヨウ素に関連したプロセスの考慮により、海洋上における地表面オゾンは平均 20 %減少した。これらのプロセスを含んだモデル計算は、2014〜2018年の研究船みらい・白鳳丸による現場観測(Kanaya et al., 2019)とも、標準バージョンのモデル計算(平均バイアス = 2.36 ppbv, r = 0.73)と比較して、より良い一致を示した(平均バイアス = 0.04 ppbv, r = 0.82)。さらに、臭素化合物による全球オゾン消失量の評価を、のSeaWIFSによるクロロフィルa衛星観測を用いたボトムアップ推定(Ordóñez et al., 2012)、船舶観測データを用いたボトムアップ推定(Ziska et al., 2013)、ベイズ推定を用いたATOM航空機観測キャンペーン(Wofsy et al., 2018)からのトップダウン推定の3つの異なる短寿命ハロカーボン放出量(CHBr3, CH2Br2, CH2BrCl, CHBr2Cl, and CHBrCl2)を用いて行った。その結果、臭素化合物による消失量はそれぞれ284, 72, 211 Tg O3/yrと推定され、消失量は短寿命ハロカーボン放出量推定に大きく依存することが示された。ヨウ素化合物の発生源については、海表面における不均一オゾン消失反応をトリガーとした無機ヨウ素化合物放出(HOI, I2)がハロカーボン(CH3I, CH2ICl, CH2IBr, and CH2I2)と比べて支配的であった。大気中の化学反応を通じたヨウ素化合物によるオゾン消失は643 Tg O3/yrと推定され、先行研究と同程度である。さらに、ヨウ素放出のトリガーとなる海表面の不均一オゾン消失(192 TgO3/yr)も、これまで陽に評価されてこなかった全球規模で重要なオゾン消失源であることが示唆された。これら結果の全球規模の対流圏オゾン収支における対流圏臭素・ヨウ素に関連するプロセスの重要性を示した。今後は、臭素・ヨウ素化合物の放出プロセスのさらなる理解と不確実性の低減が必要である。