[AAS08-08] 成層圏突然昇温に伴う2重成層圏界面と高高度成層圏界面の形成
キーワード:中層大気、成層圏突然昇温
成層圏突然昇温(SSW)は、対流圏から鉛直伝播するプラネタリー波と平均流の相互作用により冬季極域成層圏の気温が数日のうちに数十度も昇温する現象である(Matsuno, 1971)。SSWイベントのうち、昇温後に消失した成層圏界面が消失し、その後高高度で再形成される場合がある(e.g., Siskind et al., 2007; Manney et al., 2008, 2009)。これはelevated stratopause (ES)と呼ばれ、重力波強制によって形成され下降することがTomikawa et al. (2012)で示されているが、その初期形成においては東西波数1のプラネタリー波も重要であるとの指摘もあり(e.g., Limpasuvan et al., 2012)、未解明な点が多い。ESの形成は高度80~90kmで起こり、中層大気ではロスビー波と重力波の協働が重要であることから(Sato and Nomoto, 2015; Sato et al., 2018)、ESをはじめとするSSW時の中層大気の応答メカニズムの解明にはMLT領域を含む重力波解像大気大循環モデル(GCM)を用いた定量的解析が有効である。
本研究では、下部熱圏までを含む重力波解像GCMを用いた2018/2019年SSWイベント再現実験の出力データを用いて、本イベントの中層大気全体で起こった力学現象の解析をした。その結果、このイベントでは2019年1月1日の大昇温後に極域でES形成が起こっていたこと、またそれに先駆けて2018年12月28日頃に上部中間圏に明瞭な温度極大(すなわち2重成層圏界面; DS)が生じていたことがわかった。そこで、2重成層圏界面と引き続くESの形成に着目し、これらの現象に果たす波強制の役割について詳しく解析した。
まず、DSの成因について述べる。DS形成の7日ほど前から北緯30°付近の高高度に西風が存在し、その上下において正と負の重力波強制がみられた。正の重力波強制の高緯度側には、負のPV勾配が生じており、これを解消するように正負のプラネタリー波強制がみられた。このことから、①まず重力波強制に伴い極側に弱い温度極大が形成され、②これによって平均場が不安定化し、③プラネタリー波が放射されることで温度極大が強化されるという3つのプロセスにより、DSが形成されると考えられる。
次に、ESの成因について述べる。ESが形成された2019年1月10日頃、極域上部中間圏では重力波強制が強く負となっていた。このとき、極域中間圏では西風が再形成されていた。したがって、Tomikawa et al. (2012)で示されていた、西風によるクリティカルレベルフィルタリングが負の重力波強制の原因であり、これがES形成にも重要であると考えられる。そこで、この西風の回復のメカニズムについて考察した。まず、大昇温前には、通常SSWで見られるように、成層圏におけるプラネタリー波強制は強く負となっていた。赤道中・上部成層圏で温度は低下し、赤道付近、成層圏界面付近での東風が強化された。この東風の下では負の重力波強制、東風の強風軸では負の総観規模波強制がみられた。その高緯度側にあたる北緯20°付近においては温度の上昇が起きていた。1月6日頃、北緯20°付近の昇温域の高緯度側では、北緯40°付近、高度~55 kmに軸を持つ西風ジェットが形成された。この西風の上では北緯60°より低緯度側において強い負の重力波強制がみられた。1月8日頃、極域成層圏・中間圏ではSSWに伴う東風の強化が起きた。東風の上、北緯60°より高緯度側では、重力波強制が強い正値となった。これらの低緯度側で負、高緯度側で正の重力波強制に挟まれた北緯60°付近では、高度50~90 kmにおいて顕著な温度上昇が起きていた。これらの結果から、①SSWに伴う低緯度気温変化と赤道付近の東風強化によって熱帯において波強制が負となり、②これが駆動する子午面循環の下降流に伴い北緯20°付近の温度上昇が起こると同時に、温度風の関係を満たすように成層圏西風ジェットが中緯度に形成され、③この西風と極域のSSWに伴う東風の上方に存在する正負の重力波強制が北緯60°で強い下降流を駆動して極域での負の極向き温度勾配を強化することで、極域中間圏の西風の再形成が起こると考えられる。
本研究では、下部熱圏までを含む重力波解像GCMを用いた2018/2019年SSWイベント再現実験の出力データを用いて、本イベントの中層大気全体で起こった力学現象の解析をした。その結果、このイベントでは2019年1月1日の大昇温後に極域でES形成が起こっていたこと、またそれに先駆けて2018年12月28日頃に上部中間圏に明瞭な温度極大(すなわち2重成層圏界面; DS)が生じていたことがわかった。そこで、2重成層圏界面と引き続くESの形成に着目し、これらの現象に果たす波強制の役割について詳しく解析した。
まず、DSの成因について述べる。DS形成の7日ほど前から北緯30°付近の高高度に西風が存在し、その上下において正と負の重力波強制がみられた。正の重力波強制の高緯度側には、負のPV勾配が生じており、これを解消するように正負のプラネタリー波強制がみられた。このことから、①まず重力波強制に伴い極側に弱い温度極大が形成され、②これによって平均場が不安定化し、③プラネタリー波が放射されることで温度極大が強化されるという3つのプロセスにより、DSが形成されると考えられる。
次に、ESの成因について述べる。ESが形成された2019年1月10日頃、極域上部中間圏では重力波強制が強く負となっていた。このとき、極域中間圏では西風が再形成されていた。したがって、Tomikawa et al. (2012)で示されていた、西風によるクリティカルレベルフィルタリングが負の重力波強制の原因であり、これがES形成にも重要であると考えられる。そこで、この西風の回復のメカニズムについて考察した。まず、大昇温前には、通常SSWで見られるように、成層圏におけるプラネタリー波強制は強く負となっていた。赤道中・上部成層圏で温度は低下し、赤道付近、成層圏界面付近での東風が強化された。この東風の下では負の重力波強制、東風の強風軸では負の総観規模波強制がみられた。その高緯度側にあたる北緯20°付近においては温度の上昇が起きていた。1月6日頃、北緯20°付近の昇温域の高緯度側では、北緯40°付近、高度~55 kmに軸を持つ西風ジェットが形成された。この西風の上では北緯60°より低緯度側において強い負の重力波強制がみられた。1月8日頃、極域成層圏・中間圏ではSSWに伴う東風の強化が起きた。東風の上、北緯60°より高緯度側では、重力波強制が強い正値となった。これらの低緯度側で負、高緯度側で正の重力波強制に挟まれた北緯60°付近では、高度50~90 kmにおいて顕著な温度上昇が起きていた。これらの結果から、①SSWに伴う低緯度気温変化と赤道付近の東風強化によって熱帯において波強制が負となり、②これが駆動する子午面循環の下降流に伴い北緯20°付近の温度上昇が起こると同時に、温度風の関係を満たすように成層圏西風ジェットが中緯度に形成され、③この西風と極域のSSWに伴う東風の上方に存在する正負の重力波強制が北緯60°で強い下降流を駆動して極域での負の極向き温度勾配を強化することで、極域中間圏の西風の再形成が起こると考えられる。