JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 成層圏―対流圏相互作用

コンビーナ:坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)、木下 武也(海洋研究開発機構)、Pu Lin(Princeton University/NOAA Geophysical Fluid Dynamics Laboratory)、Peter Hitchcock(Cornell University)

[AAS08-13] 中層大気の長期データ同化プロダクトの作成

*小新 大1佐藤 薫1高麗 正史1渡辺 真吾2宮﨑 和幸3 (1.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.海洋研究開発機構、3.NASA JPL)

キーワード:中層大気、データ同化、半球間結合

1. はじめに
 中間圏の力学には対流圏や成層圏とは異なり、非地衡成分である重力波の役割が重要であり、ロスビー波との協働についても指摘されている。また、中間圏の循環を介した南北半球間結合の存在が示唆されているが、重力波変調に対する定量的な検証はほとんど行われていない。現在、中間圏は人工衛星や各種レーダーなどで観測されているが、全球的な解析を行うには頻度や密度が十分でない。各気象機関等により提供されている再解析データは中部成層圏までを対象としている。上部成層圏及び中間圏のデータ同化についてはいくつかの研究機関で行われているが、開発段階にあり長くても数か月の期間に注目した実験がほとんどである([1]など)。本研究では、Koshin et al. (2019)[2] で開発した中層大気を対象とするデータ同化システムをさらに改良し、中間圏も観測しているAura MLS データが入手可能な2004年8月13日から現在まで、約15年間の解析値の作成に取り組むことにした。

2. データ同化手法
 現在開発しているデータ同化システム[2]をもとに、Incremental Analysis Update (IAU) を適用し非現実的な擾乱を抑えた改良版(2019年度秋季大会で発表)を用いた。同化する観測値として、TIMED SABER (z=25~110km) 及びDMSP SSMIS (z=25~80km) を新たに加えた。モデルの水平解像度は約300km (T42)、鉛直解像度は約1km、アンサンブルメンバー数は50とした。同化サイクルの繰り返しにより解析値を改善するため、解析期間はなるべく連続していることが望ましい。しかし、同化には多くの計算時間が必要なので期間を3つに分割して行うことにした。すなわち、2004年8月13日~2008年12月31日 (Stream1) 、2008年11月15日~2013年12月31日 (Stream2) 、2013年11月15日以降 (Stream3) の3期間である。

3. 結果
 計算が終了しているStream2の期間について、図1に東西平均気温(北緯70~80度)及び東西風(北緯60~70度)を示す。2009年1月中旬から成層圏界面が下降し、西風が逆転している。その後、高度約85kmにはElevated stratopauseが現れ、約2か月かけて下降している様子も見てとれる。図2に突然昇温時に該当する2009年1月24日12UTCの鉛直構造を示す。高度約30~80kmでは2つに分かれた極渦が見られ、ほぼ順圧的な構造を持つ。高度約80~100kmでは極渦は西に傾いている。さらに上方では、下の高度とは位相が連続していない惑星波の構造がみられる。

4. 今後の展望
 長期解析値を用い、中間圏及び下部熱圏を含む全中層大気における南北半球間結合などグローバルな場の解析及び対流圏への影響についての解析を行う。また、解析値を高解像度モデルの初期値として用い、重力波を含む現実的な場の計算も計画している。

参考文献
[1] Eckermann et al. (Mon. Wea. Rev., 2018)
[2] Koshin et al. (Geosci. Model Dev. Discuss. 2019, in revision)
図1. 北半球極域の時間高度断面。色:T(70~80oN)、等値線:U(60~70oN)

図2. 2009/1/24 12UTCの高度約30~110kmのジオポテンシャル高度。等値線間隔は500m。東西平均からのずれが+500m以上、-500m以下の領域をそれぞれ赤と青で示す。経度は手前が0度、奥が180度。北極点と30oN、60oNの緯線を緑で示す。