JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC39] 雪氷学

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)

[ACC39-05] 高分解能光学顕微鏡による氷表面の疑似液体層の直接観察:硝酸ガスの効果

*長嶋 剣1Josée Maurais2村田 憲一郎1古川 義純1Patrick Ayotte2佐崎 元1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.シャーブルック大学)

キーワード:氷、疑似液体層、硝酸ガス、光学顕微鏡

氷は地球上で最も豊富な結晶の1つであるため、氷結晶表面を分子レベルで理解することは氷に関する多くの問題を解き明かす鍵となります。我々はオリンパス(株)と共同でレーザー共焦点顕微鏡と微分干渉顕微鏡とを組み合わせた顕微鏡を開発しました(LCM-DIM)。我々は氷表面の分子の階段(厚さ0.37 nmの単位ステップ)の直接観察に初めて成功し[1]、氷結晶表面の疑似液体層(QLL)の直接観察にも成功しました[2]。融点(0°C)以下の温度でも氷表面はnm厚みの薄い液体層に覆われており、この層を疑似液体層と呼びます。窒素ガス下でのQLLのLCM-DIM観察により、QLLの出現する温度、ならびにH2O分圧が明らかになりました[3,4]。一方、微量の酸性ガスでさえもQLLの安定性を変えることがわかってきました。この研究ではモデル大気ガスとして硝酸ガスを選択し、大気組成[5,6]に近いHNO3分圧(0, 10-4, 10-2 Pa)に窒素ガスを加えた一気圧下で疑似液体層の出現・消失温度を調べました[7]。

HNO3ガスの有無に関係なく、pure-QLLおよびHNO3-QLLは温度増加により出現し、温度減少により消失しました。pure-/HNO3-QLLの形状は、球形ドーム状で氷との接触角は約1°でした。すなわち、氷との接触面の直径が50 umの時に高さ100 nmに満たない非常に薄い液体層であることがわかりました。Pure-/HNO3-QLLの出現温度にはそれほど差がありませんでしたが(PHNO3が0, 10-4, 10-2 Paの時それぞれ-1.9, -0.5, -1.8 °C)、消失温度には差が見られました。Pure-QLLの消失温度(-2.2 °C)は出現温度とほぼ同じでした。しかし、高い硝酸ガス分圧の条件(10-2 Pa)におけるHNO3-QLLの消失温度は-6.4 °Cであり、出現温度(-1.8 °C)とかなりの差がありました。出現・消失温度間の大きな熱ヒステリシスは、pure-/HNO3-QLLの消失メカニズムが異なっていたことを示唆しています。結論を述べると、HNO3-QLLは純水ではなく硝酸水溶液であり、HNO3-QLLと氷の結晶は平衡状態にあることがわかりました。

最近、我々は塩化水素ガス存在下におけるQLLの挙動について調べたところ[8,9]、HCl-QLLも塩酸水溶液であることがわかりました。この結果は、HNO3-QLLで見つかった結果と類似しています。したがって、硝酸や塩酸といった酸性ガスのある状況では、氷の結晶表面のQLLが大量の酸性ガス成分を捕捉する可能性があります。



[1] Sazaki et al. (2010) PNAS 107, 19702.

[2] Sazaki et al. (2012) PNAS 109, 1052.

[3] Asakawa et al. (2015) PNAS 113, 1749.

[4] Murata et al. (2016) PNAS 113, E6741.

[5] Goldan et al. (1983) Atmos. Environ. 17, 1355.

[6] Hanke et al. (2003) Atmos. Chem. Phys. 3, 417.

[7] Nagashima et al. (2020) Crystals 10, 72.

[8] Nagashima et al. (2016) Cryst. Growth Des. 16, 2225.

[9] Nagashima et al. (2018) Cryst. Growth Des. 18, 4117.


この研究の詳細は論文[7]に示されています。また「A-AS07 大気化学」「M-IS23 結晶成長・溶解」の各セッションでも、他の観点から見た硝酸QLLについての発表を致します。