JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC39] 雪氷学

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)

[ACC39-P01] SfM-MVS技術を用いた飛騨山脈の氷河の質量収支の算出

*有江 賢志朗1奈良間 千之1福井 幸太郎2飯田 肇2 (1.新潟大学、2.立山カルデラ砂防博物館)

キーワード:氷河、質量収支、SfM-MVS

1.はじめに
 
福井・飯田(2012),福井ら(2018),有江ら(2019)は,電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査機と数cm精度の精度で位置情報の取得が可能なGNSS測量機を用いて,飛騨山脈の多年性雪渓において氷厚と流動の測定を実施し,飛騨山脈北部にある厚い氷体と流動現象が確認された七つの多年性雪渓が現存氷河(御前沢氷河,小窓氷河,三ノ窓氷河, 内蔵助氷河,池ノ谷氷河,カクネ里氷河,唐松沢氷河)であることを確認した.しかしながら,これら氷河に関して氷厚測定,流動測定などの現地観測による結果が出そろった段階であり,氷河の質量収支や流動機構などは明らかになっていない.
  そこで,本研究では,セスナ空撮画像とSfM-MVS技術を用いて多時期の地形表層モデル(DSM:digital surface model)を作成,比較する測地学的方法で,飛騨山脈の御前沢氷河,三ノ窓氷河,小窓氷河,カクネ里氷河,唐松沢氷河における2015/16年,2016/17年,2017/18年,2018/19年の計4年間分(唐松沢氷河では2017/18年~2018/19年の2年間分)の質量収支および積雪深と融雪深を算出した.

2.方法
 
本研究では,2015年~2019年の融雪末期(9月下旬~10月上旬)と積雪最大期(3月下旬~4月上旬)にセスナ機から氷河全体と氷河周辺の地形の連続空中写真を取得した.さらに,セスナ空撮によって取得された2次元の空中連続写真とSfM-MVS技術を用いて,3次元の地形表層モデル(DSM)を作成した.氷河の質量収支は,2時期の地形モデルの比較から相対体積変化を算出し,相対体積変化に雪氷体の密度を積算することで求めることができる.本研究では,空撮を実施した年度の融雪末期のDSMの比較から,飛騨山脈の5つの氷河の2015/16年~2018/19年の年間質量収支を算出した.さらに,積雪最大期のDSMと融雪末期のDSMの比較から,対象氷河の2015/16年~2018/19年の積雪深,融雪深を算出した.

3.結果
 
図1に各氷河,各年度の融雪末期のDSMの差分によって求められたDSMの相対高度変化を示す.図1では,DSM差分データから算出される相対高度変化が,正に大きいほど赤色,負に大きいほど緑色,ほとんど変化がなければ黄色で表される.また,各氷河,各時期において,起伏が大きく急傾斜なエッジの箇所を除く基盤地形の範囲は,黄色で表されているため(平均1m以下),高精度でDSMの差分ができていることが確認できた.氷河内の相対高度変化は,赤色(2017年-2016年)または緑色(2016年-2015年,2018年-2017年,2019年-2018年)で表されていることが確認できた.さらに,相対高度変化の大きさは,各氷河,年度によって異なるが,氷河上で部分的な相対高度変化の差はみられず,氷河全域で一様に変化していることが確認できる.図2は,各氷河,各年度の算出された年間質量収支,積雪深,融雪深である.図2をみると,各氷河の融雪深に年変動に対して,積雪深と年間質量収支の年変化が大きいことが確認できる.さらに,年間質量収支の年変化と積雪深の年変化には比例関係があることが確認できる.以上のことから,飛騨山脈の氷河の年間質量収支は,その年の積雪深に依存しており,豪雪の年では全域が涵養域,小雪年では全域が消耗域となり,氷河上流部に涵養域,下流部に消耗域をもつという一般の氷河の質量収支とは異なる特徴が確認できた.