JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC39] 雪氷学

コンビーナ:縫村 崇行(東京電機大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)

[ACC39-P12] 信越地方苗場山の積雪で繁殖する雪氷藻類の分布と植生との関係

*高橋 翼1鈴木 拓海1竹内 望1 (1.国立大学法人 千葉大学)

キーワード:雪氷藻類、植生、雪山

世界でも有数の多雪地帯である日本列島の山岳域には,多雪の影響を強く受ける生態系が存在する. 多雪環境に特徴づけられる生物群集の一つが, 積雪表面で繁殖する雪氷藻類である. 雪氷藻類は, 低温環境に適応した光合成微生物で, 栄養塩の消費や有機物の合成などにより積雪環境と相互作用を持つ. 雪氷藻類は樹林帯から高山帯の積雪まで広く分布することは知られているが, その山岳域の植生が雪氷藻類の生態(繁殖時期や繁殖条件)にどのような影響を与えているかについては, ほとんど明らかにされていない. 一般に標高によって異なる植生の種類は積雪上の光条件や栄養条件に影響を与えることから, 雪氷藻類の種類や繁殖量は, その場の植生に依存している可能性がある. そこで本研究は, 本州日本海側に典型的な植生を持つ信越地方苗場山において, 雪氷藻類の時空間変動を明らかにし, 植生と雪氷藻類との関係を明らかにすることを目的とする.  

調査は, 苗場山の北西側の斜面の標高の異なる10地点(S1-10)で, 4月中旬(4/13-14), 4月下旬(4/29-30), 5月上旬(5/9-11)の計3回にわたって行い, 積雪表面のクロロフィルa濃度及び積雪の物理化学条件の時空間変化を明らかにした. 全地点の平均クロロフィルa濃度は, 4月中旬から5月上旬にかけて, 有意に増加した. 4月下旬及び5月上旬には,クロロフィルa濃度は, 低標高のS1,2で比較的高い値を示した. また, 5月上旬には上部のS7でも, 比較的高い値を示した. 低標高で藻類量が大きいのは,気温が高く融解期間長い場所でより長く雪氷藻類が繁殖したためと考えらえる. しかし, 藻類の標高分布は, 単純に標高に依存した分布となっていない. この原因は, 気温ではない別の要因が藻類量の繁殖量に影響しているためと考えられる. 積雪の化学成分分析の結果は, この藻類分布に最も影響を与えているのは, PO₄³⁻であると示唆している.各地点の植生は, S1,2,7で針葉樹林(スギ, オオシラビソ), S3,4,5,8で広葉樹林(ブナ, ダケカンバ), S9,10で高山帯であり, 針葉樹林でのみPO₄³⁻の濃度が期間中大きく増加した. このことは, PO₄²⁻が針葉樹から供給されたことを示唆してる. 一般に, 藻類は溶存窒素や溶存リンを利用して繁殖するため, 針葉樹から供給されるPO₄³⁻がS1,2の環境収容力を増加させ, S1,2の藻類量が大きくなったと考えられる.

 本研究によって, 雪氷藻類の時空間変動を決定するのは, 融解期間と植生から供給される化学成分であることが強く示唆された. 苗場山の植生分布は, 本州日本海側で典型的なものであり,このような植生から雪氷藻類の分布や繁殖時期を推定できる可能性がある.