JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG44] 中緯度大気海洋相互作用

コンビーナ:釜江 陽一(筑波大学生命環境系)、遠山 勝也(気象庁気象研究所)、Hyodae Seo(Woods Hole Oceanographic Institution)、佐々木 克徳(Hokkaido University)

[ACG44-P04] 西日本を西進した台風と寒冷渦との相互作用

*峯 大誠1立花 義裕1 (1.三重大学生物資源学部)

キーワード:台風、寒冷渦

2018年台風12号は日本列島に東から接近し,三重県伊勢市付近に上陸後西日本を西向きに進んだ.この進路は1951年の統計開始以降で初めての進路である.台風の日本接近前は,北西方向に進みながら日本に接近し日本海へと抜けると予想されていた.しかし,実際は予想より大きく東に回り,日本上陸後は日本海に抜けることなく進路を西から南に変えながら西日本を西進した.結果として予報より急激にカーブするような進路を取った.



気象庁の報道発表によると前例の無い進路を取った大きな要因の1つとして,日本の南に南下してきた寒冷渦の影響が挙げられる.本研究では,台風と寒冷渦が互いにどう影響を及ぼし合って今回のような台風の進路になったかを考察する.



本研究では領域気象モデル(WRFv3.4.1)を用いて2種類の実験を行った.初期値,境界値には大気場のデータにGSM、海面水温のデータにRTGSSTを使用した.一方の実験は東経120.2°~149.8°,北緯20.3°~44.9°の領域で水平解像度を25kmとして計算した.この実験をNormal実験とする.もう一方はNormal実験と同じ領域の中に水平解像度が5kmのドメイン2を設定した.ドメイン2は東経133.3°~141.3°,北緯20.7°~28.0°の台風を囲う領域である.また,ドメイン2は台風を追従する.この実験をTwo way実験とする.Two way実験のドメイン2では,ドメイン1の計算結果が境界値として使われる.さらに,ドメイン2の計算結果をドメイン1に反映させる.ドメイン2は水平解像度が細かいため,ドメイン1より台風の再現性が高くなると考えられる.この2種類の実験を比較することで,台風が寒冷渦や周囲の環境場にどのような影響を与えたかを考察する.なお,計算時間は両実験とも2018年7月26日00UTC~2018年8月1日00UTCとした.



結果は両実験とも台風の強度については過小評価であったが,Two way実験の方が実際の強度との差は小さかった.進路はNormal実験では予報と同様,実際より小さく回りながら日本に接近したが,Two way実験では日本上陸前までは非常に再現性が高かった.日本に上陸する直前からは両実験とも進路の再現性は高くなかったため,この実験では日本に上陸する前までを解析の対象とする.

寒冷渦の進路と強度の再現性についても確認した.進路は両モデル間での大きな差は無く,実際の進路との差も小さかった.強度についてはTwo way実験では再現性は高かったが,Normal実験では実際より早い衰弱が見られた.衰弱と同時に,Normal実験の寒冷渦の方が温度の上昇も早いことが確認できた.



2モデルで上空500hPa面の風を比較した.両モデルとも寒冷渦が作る低気圧性の風の流れが見えたが,差を取ると,Two way実験の方が台風を大きく回すような風の流れができていた.



Two way実験ではNormal実験に比べて,台風の下層での収束と台風の上層での発散が大きかった.また寒冷渦付近では,Two way実験では収束,Normal実験では発散が見られた.以上のことから,Two way実験の方が,下層では台風に向かう流れ,上層では寒冷渦に向かう流れが大きかったと考えられる.

Normal実験の寒冷渦の東側で上昇流が生じていることが確認できた.上昇流が存在する場所で寒冷渦付近に雲の増加も見られた.以上のことから,Normal実験では潜熱によって大気が暖められ,寒冷渦の衰弱に繋がったと考えられる.


以上の結果より,Two way実験では台風が発達することにより寒冷渦の強度が維持され,台風を大きく回す風の流れができたと考えられる.