JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG55] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

コンビーナ:山田 誠(龍谷大学経済学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

[ACG55-11] 海洋健全度指数を用いた北海道沿岸域の環境評価

王 雪純2田村 全2仲岡 雅裕3,2山北 剛久4、*藤井 賢彦1,2 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、4.海洋研究開発機構)

キーワード:海洋健全度指数、北海道、沿岸域、水産業、観光業、生態系サービス

沿岸域は世界人口の約4割が海岸から100km以内の地域に居住し,その人口密度は世界平均の3倍程度であり(Small and Nicholls, 2003; Millennium Ecosystem Assessment, 2005),海産物のような食料供給をはじめとする様々な便益,すなわち生態系サービスを人間社会に多く提供している.しかし,人口増加と経済成長とともに,人間活動による沿岸環境への負荷が大きくなり,また気候変動に伴う自然災害の頻発などの影響で,沿岸生態環境が不健全な状態に陥り,各サービスを提供する能力が著しく低下している(Millennium Ecosystem Assessment, 2005; IPCC, 2007; Halpern et al., 2015).将来,生態系サービスを持続的に享受していくためには,沿岸域の環境を評価し,環境保全と経済成長が両立できる総合的な管理が必要だと考えられる(和田, 2005).このような背景から,人間を自然生態系の一部として捉え,社会的・経済的・生態的な視点から沿岸・海洋環境の健全度を包括的に評価する海洋健全度指数(Ocean Health Index; OHI)が考案された(Halpern et al., 2012).OHIでは各地域・各目標を100点満点で評価することで,目標ごと,地域ごとの比較や検討を行うことができる.本研究ではOHIを用いて北海道沿岸域の環境を総合的に評価し,沿岸域の健全度を向上させるための統合的な管理に向けた提言を行うことを目的とした.

本研究ではOHIの10目標のうち食料供給,観光とレクリエーション,生計手段と経済,場所のイメージ,炭素貯蔵,海岸保護,水質調整,生物多様性の8目標を評価対象に,田村(2018)を参考に各目標の評価値の計算に必要な現況指数,トレンド指数,Pressure and Resilience(PR)指数,近未来指数の値を得た.そして,8目標の評価値を合算することにより,北海道沿岸12振興局における総合評価値を得た.

OHI総合評価値は最も高いのがオホーツクの72点,次は後志で63点,最も低いのが石狩と留萌の28点となった.オホーツクの評価値が高い原因として,食料供給の高評価値(85)が挙げられ,これは主に漁業・養殖業の生産量が高いことによる.また,後志では沿岸域の自然公園の年間利用者数が多く,場所のイメージの高得点(98)が高い総合評価値に寄与した.一方,石狩と留萌では漁業・養殖業の生産量が少なく,沿岸域の自然公園を訪れる人も少ないため,食料供給と場所のイメージが共に低評価であったことが低い総合評価値の主な要因である.このことから,石狩と留萌では重要漁獲種の資源管理を適切に行い,資源量の回復に努力すること,また観光客の誘致を図ることが地域の環境健全度の向上につながると示唆される.