[ACG57-01] 負の北極振動と中緯度寒波の新因「北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴(warm hole)」
★招待講演
キーワード:北極振動、チュクチ海、豪雪
2017-18冬(平成30年度冬)の北極振動指数は長期に亘り「負」の状態が続き,北極域の対流圏上層気温も史上最高となった.日本は32年ぶりの記録的寒波年となり,北陸地方では記録的豪雪年となった.一方,北極ではアラスカ沖(チュクチ海)の北極海の海氷が観測史上最も少なかった.我々はこれを暖穴(warm hole)と命名し(図1参照),これが北極対流圏上層気温の異常高温をもたらすことで負の北極振動の状態が継続し,記録的寒波を日本にもたらしたことをデータ解析と海氷on/offの数値実験により示した(Tachibana et al., 2019 [1]). 発表では,上記論文の成果を述べると共に,数年前から始まったチュクチ海の海氷激減を起因とする中緯度寒波頻発時代への突入の可能性についても言及する.
以降2017-18冬を例に述べる.チュクチ海氷の激減に伴う海氷の穴は,ベーリング海峡付近で低気圧を強化することで太平洋からの 暖湿なatmospheric rivers の極域への流入を促進し(左図の北向き矢印),北極上空を暖めることが期待される[2](右図の大気側の矢印).北の寒気と中緯度の暖気の境界で吹く偏西風は,暖かい図1の円柱域を避けるように迂回させられ,北極点近くまで侵入した.偏西風の侵入の反動で,北極寒気を東西に引き裂き東アジアと北米方向に寒気が分裂し押し出され,両地域に寒波をもたらした.Warm holeは大気・海洋・海氷の正のフィードバックによりself-sustainableである.ベーリング海・チュクチ海共に海氷が消えたことから,atmospheric riversに伴う極向きの風応力が海洋に直接作用する.従って太平洋の暖水の北極海への流入を促す(右図の下部の右向き矢印).またベーリング海では,atmospheric riversから海洋に熱を付加的に供給する(右図下部の下向き矢印).従って風応力により促進させられた海流による極向き熱輸送量も増大する.さらにwarm hole上では海から大気へ向かって熱が供給される(右図下部の上向き矢印).これら海洋・大気双方による極向き熱輸送の増大により対流圏大気の異常高温も持続される.対流圏上層の異常高温による下向き長波放射の増加と,atmospheric riversに伴う極向きの風応により,warm holeは維持される.
大西洋セクターの北極海(バレンツ海)の海氷減少が中緯度の寒冷化に影響を及ぼす研究はHonda et al. (2009)[2]の先駆的研究に端を発し数多くの追従研究があるが,アラスカ沖北極海の海氷激減の中緯度の異常へ及ぼすことを示した研究は本研究が初めてである.
[1] Tachibana, Y., K. K. Komatsu, V. A. Alexeev, L. Cai, and Y. Ando, Warm hole in Pacific Arctic sea ice cover forced mid-latitude Northern Hemisphere cooling during winter 2017-18, Scientific Reports, 9, 5567, DOI: 10.1038/s41598-019-41682-4 , (2019)
[2] Komatsu, K. K., Alexeev, V. A., Repina, I. A. & Tachibana, Y. Poleward upgliding Siberian atmospheric rivers over sea ice heat up Arctic upper air. Scientific Reports 8, 2872, https://doi.org/10.1038/s41598-018-21159-6 (2018).
[3] Honda, M., Inoue, J. & Yamane, S. Influence of low Arctic sea-ice minima on anomalously cold Eurasian winters. Geophys. Res. Lett. 36, L08707, https://doi.org/10.1029/2008GL037079 (2009)
以降2017-18冬を例に述べる.チュクチ海氷の激減に伴う海氷の穴は,ベーリング海峡付近で低気圧を強化することで太平洋からの 暖湿なatmospheric rivers の極域への流入を促進し(左図の北向き矢印),北極上空を暖めることが期待される[2](右図の大気側の矢印).北の寒気と中緯度の暖気の境界で吹く偏西風は,暖かい図1の円柱域を避けるように迂回させられ,北極点近くまで侵入した.偏西風の侵入の反動で,北極寒気を東西に引き裂き東アジアと北米方向に寒気が分裂し押し出され,両地域に寒波をもたらした.Warm holeは大気・海洋・海氷の正のフィードバックによりself-sustainableである.ベーリング海・チュクチ海共に海氷が消えたことから,atmospheric riversに伴う極向きの風応力が海洋に直接作用する.従って太平洋の暖水の北極海への流入を促す(右図の下部の右向き矢印).またベーリング海では,atmospheric riversから海洋に熱を付加的に供給する(右図下部の下向き矢印).従って風応力により促進させられた海流による極向き熱輸送量も増大する.さらにwarm hole上では海から大気へ向かって熱が供給される(右図下部の上向き矢印).これら海洋・大気双方による極向き熱輸送の増大により対流圏大気の異常高温も持続される.対流圏上層の異常高温による下向き長波放射の増加と,atmospheric riversに伴う極向きの風応により,warm holeは維持される.
大西洋セクターの北極海(バレンツ海)の海氷減少が中緯度の寒冷化に影響を及ぼす研究はHonda et al. (2009)[2]の先駆的研究に端を発し数多くの追従研究があるが,アラスカ沖北極海の海氷激減の中緯度の異常へ及ぼすことを示した研究は本研究が初めてである.
[1] Tachibana, Y., K. K. Komatsu, V. A. Alexeev, L. Cai, and Y. Ando, Warm hole in Pacific Arctic sea ice cover forced mid-latitude Northern Hemisphere cooling during winter 2017-18, Scientific Reports, 9, 5567, DOI: 10.1038/s41598-019-41682-4 , (2019)
[2] Komatsu, K. K., Alexeev, V. A., Repina, I. A. & Tachibana, Y. Poleward upgliding Siberian atmospheric rivers over sea ice heat up Arctic upper air. Scientific Reports 8, 2872, https://doi.org/10.1038/s41598-018-21159-6 (2018).
[3] Honda, M., Inoue, J. & Yamane, S. Influence of low Arctic sea-ice minima on anomalously cold Eurasian winters. Geophys. Res. Lett. 36, L08707, https://doi.org/10.1029/2008GL037079 (2009)