JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG57] 北極域の科学

コンビーナ:庭野 匡思(気象研究所)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、小野 純(東京大学大気海洋研究所)

[ACG57-P13] 近年における関東降雪の極端化と大気循環の変化

*中村 祐貴1立花 義裕1 (1.三重大学大学院 生物資源学研究科)

キーワード:南岸低気圧、ストームトラック、レジームシフト

関東地方は一冬を通してあまり雪が降らず,豪雪地帯の北陸地方を中心とした日本海側に比べて雪への対策は脆弱である.そのため,一度積雪が起きるとライフラインに大きな影響が出る.その一例として,2014年2月には,大雪の影響でブレーキの効かなくなった電車が駅で停車していた先行電車に衝突し,72名が負傷した事故も起きた.
将来的にもこのような雪氷による事故が起きる可能性はあり,将来的な関東の降雪量の予測が必要である.将来的な降雪量の予測をした研究は,数値モデルを用いたものがある.将来を予測するためには,数値モデルのような仮想の世界を見るのもよいが,まずは,現在までに何が起こっているか,過去と近年でどのように変わってきているかを知ることも必要である.
よって,本研究の目的は降雪や積雪による社会的な影響が大きい関東地方において1,2月の環境場を統計的に比較し,過去と近年で環境場がどのように変化したかを探ることとする.

まずは,過去と近年で年ごとの総降雪量に違いがあるのかを確認するため,1961~2018年の58年間での関東地方における各年の1,2月の総降雪量の推移を見た.すると,平年値を大きく上回る年は数年に一回あった.ただ,期間の前半や後半に偏っているわけではなく,1988年以前を過去,1989年以降を近年とすると,過去と近年の年平均降雪量に有意な差はなかった.また,1988/89を境にしてレジームシフトが起こり,気候が大きく変わった.そこで,総降雪量が多い順に年を並べ替えると,1980年代後半に起こったレジームシフト以降の年が特に上位に目立った(図. 1).

そこで,1989年以降の年が上位に目立つ要因について合成図解析を用いて,降雪日での各気象場の平均の差を比較することにより考察した.南岸低気圧による降雪事例を抽出するため,降雪日の定義は都県庁所在地の気象官署と館野(茨城県)の8地点中5地点以上で1cm以上の降雪を観測した日とした.また,極端な降雪年は近年の方が多い要因を考察するため,抽出した事例の中で8地点合計100cm以上の事例を「極端事例」,極端事例以外のものは「普通事例」とした.極端事例数の増減と極端・普通両事例の一事例あたりの降雪(水)量の増減の2つから探った.

抽出された全事例数は過去30年で40事例,近年28年で30事例の合計70事例あり,全事例数は40から30に減っていた.しかし,図1より各年の1,2月総降雪量は近年の方が上位にあることが分かり,極端事例の回数も過去5事例,近年9事例と,近年の方が増えていた.
そこで,なぜ極端事例の数が増加したかを考察するためストームトラックの変化を確認すると,日本の南海上から東海上で強まっていた.また,同様の場所で海面水温の南北温度勾配も強まっていた.また,極端・普通事例で各事例の降雪(水)量を調べると,両事例で降水量には有意な増加があった.

ストームトラックが近年の方で強まっていたことを踏まえて,過去と近年のそれぞれの場において,北半球全体および北極域に着目して,多雪年は近年の方が多い要因と極端事例が増加した要因を考察している.この解析については,当日発表予定である.