JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG58] 航空機・無人機観測による地球惑星科学の推進

コンビーナ:高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、町田 敏暢(国立環境研究所)、篠田 太郎(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[ACG58-P07] 大型研究「航空機観測による気候・地球システム科学研究の推進」について

*高橋 暢宏1小池 真2 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所、2.東京大学 理学系研究科)

キーワード:気候変動、航空機観測

本研究は日本学術会議のマスタープラン2020に日本気象学会・日本大気化学会・日本航空宇宙学会の共同で、地球観測への無人機利用などの工学分野との融合を目指して理工の融合領域へ提案したものである。本提案は日本地球惑星科学連合(大気水圏科学セクション)、日本地理学会、地理情報システム学会、砂防学会、日本リモートセンシング学会、日本雪氷学会、大気環境学会、水文・水資源学会、日本自然災害学会、日本海洋学会、Japan Flux(フラックス観測ネットワーク)からも正式に連携を表明いただいた。昨年5月のJpGUでの地球惑星科学分科会でのヒアリングおよび11月の重点領域のヒアリングを経て、重点領域に指定された(今回の新規重点課題は16課題)。



本研究の目的は、わが国初となる地球観測専用の航空機を導入することにより、大気、海洋、植生、雪氷、固体地球などのすべての地球科学分野を横断した、気候・地球システム科学研究を推進するものである。

地球温暖化を含む地球環境の変動が急速に進行し、人間の経済社会活動や水・食糧供給など生活の基盤に大きな影響を与えつつある。しかし気候・環境のシステムとしての振る舞い(マクロ量の変動)の理解のためには、温室効果気体の濃度や雲・エアロゾルの粒径・化学組成といったミクロ量や素過程の理解が不可欠である。地球科学の諸分野は共通して、このスケールギャップ問題に直面しているといえる。人工衛星や地上観測では捉えることができない、100m以下のミクロ量を広域かつ高度分布まで含めて観測できるのは、航空機観測だけである。すなわち航空機観測は、従来の観測の精度を上げるのではなく、全く新しい観測量を得る手段である。本研究は航空機観測により、ミクロ量・素過程の理解に基づいた気候・地球システムの振る舞いの理解を実現する、地球科学のパラダイムシフトを目指すものである。そして航空機観測を軸として、大気、海洋、陸上植生、雪氷、そして固体地球の諸分野を横断する統合地球科学の枠組みの確立を目指す。特に急激な環境変化が顕在化しつつも、航空機観測の空白域となっているアジアと北極に重点をおいた観測研究を展開する。

日本にはこれまで地球観測専用の航空機が存在しないため、個々の研究においては民間航空機をレンタルした観測により成果を得つつも、アジアでは体系的な航空機観測が実施されてこなかった。しかしながらその観測技術は世界のトップレベルにある。この日本の強みを活かすために、本研究ではわが国初となる地球観測専用の航空機を導入し、航空機を幅広い分野の研究者が長期的な視点から利用できる、共同利用・共同研究拠点制度に基づく研究者主体の運用体制を確立する。長期的な運用(10年間)により地球科学の重要な課題に対して計画的に観測・研究を実施することで、革新的な成果をあげるとともに、戦略的な機器開発と人材育成を実現する。観測機としては、民間企業が保有するG-IVクラスのジェット機を専有利用の形でレンタルする。また地球科学には、さまざま航空機を利用したいというニーズがあるため、他のプロペラ機や水上機の利用も審査の上で支援する。さらに近年、急速な技術進歩を遂げている無人機の地球観測利用も、強力に推し進める。このために理工の融合研究を展開する。予算は10年間で155億円。最初の2年を立ち上げフェーズ、続く4年を個別分野の研究フェーズ、最後の4年を統合研究フェーズとして位置づけ、さらにそれ以降への研究へと発展させる。

実施体制としては、全国共同利用拠点として認定された名古屋大学の宇宙地球環境研究所に、この航空機観測計画の実施を念頭に設置された飛翔体観測推進センターが、共同利用の運用母体となる。航空機の保有と運用は民間企業に委託する。また飛行技術開発のために、JAXAがその知見を生かした支援を行う。本研究では、学術的に優れた観測研究を公平に支援するために、大気、海洋、陸上生態系、雪氷、地震・火山分野の全国の研究者からなる航空機観測推進委員会を設置する。そして、これまで航空機を利用したことがない、全国のさまざまな分野の研究者を支援していく。

 本計画の立案には国内だけで22の学協会の方が参加し、連合大会などで議論を重ね、224ページの研究計画書を策定している。

 本研究は、気候・地球システムの理解という学術的な深化により、台風・集中豪雨の予測精度の向上や洪水・地震などの災害状況の把握などにより防災・減災という社会貢献を目指すものである。そしてこのような研究を通じて、国連のSDGsやフューチャーアースなどにも貢献することを目指す。