JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG60] 気候変動への適応とその社会実装

コンビーナ:石川 洋一(海洋研究開発機構)、山野 博哉(国立環境研究所)、大楽 浩司(筑波大学)、渡辺 真吾(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

[ACG60-02] 力学的ダウンスケーリングデータを活用した四国における地域スケールでの水災害の影響評価の検討

*吉村 耕平1那須 清吾1 (1.高知工科大学)

キーワード:水災害、気候変動影響評価、四国、力学的ダウンスケーリング

気候変動適応策としての防災政策は重要であり、国も水防法の改正などで対策を進めている。対して実際に市民を守る防災政策を実施する自治体は、過去の発生した地域最大規模の降雨への備えを進めている。しかし、気候変動による降雨規模の増大は対象ではなく、災害現象の変化とその影響を反映させた防災対策も途上である。

適応策としての防災政策を立案するためには、気候変動によってどのような被害が発生するかを予測する必要がある。そのためには、地域スケールにダウンスケーリングされた気候変動予測モデルを活用する必要がある。また、ダウンスケーリングされた予測データは、地域の災害特性や防災インフラに応じた影響評価と組み合わせる必要がある。

我々は吉野川流域の石井町と高知平野の高知市とともに防災協議を行っており、災害リスクに応じた防災政策の立案を進めている。そこでの具体的な事例を示す。

昨年度は吉野川水系において、d4PDFや統計ダウンスケーリングを活用したリスク評価を行った。池田ダム地点でのd4PDFや統計的ダウンスケーリングのデータを比較し、洪水規模の変化ならびにその再現性を検証した。

 吉野川水系の治水利水の要となる早明浦ダムでは、渇水や大規模な洪水を繰り返している。また、渇水でダム水位が低下した状態で、大規模な出水が発生するなど、複雑な状況にある。また早明浦ダムは、放水路を増設する改造工事の計画が進められている。これにより、ダムの水をより素早く放流することで洪水調節容量を増大させることが出来る。同時に運用ルールを見直して、より洪水への対応能力を増やすことを計画している。流域内での治水・利水の要となる早明浦ダムを活用した気候変動適応策を検討するために、洪水流量のみならず、長期でのダムの貯水量の推移を予測することで運用ルールを最適化する必要がある。

 前回は、大規模な洪水が発生した時点でのダムの貯水量などを検証するため、洪水流入量と4~6月の月雨量との関係性を比較した。しかし、d4PDFの四国山地での再現性が高いとはいえ、絶対値で現在気候を完全に再現しているわけではない。ダムが治水・利水の両面で有用になる4~9月において、月雨量は絶対値として合致していない。そこで、降雨特性に考慮して月雨量をバイアス補正し、さらにダムの水位維持に必要な月雨量を推定することで、簡便なダムの貯水量の推定を行った。d4PDFの現在気候再現と将来予測に対しダムの貯水量の水位を比較することで、定量的な渇水リスクの変化について評価を行うとともに、大規模な洪水発生時のダムの貯水量の値を推定し、今後のダム運用がどうあるべきかを分析した。

 d4PDFのデータは巨大であり、計算機資源が無く研究者ではないダム管理者や自治体は影響評価を行うことは難しい。しかし、バイアス補正済みの月雨量データを研究機関が提供することで、地域の特性に応じて影響評価を行えることが示された。

 高知平野においては、山間部からの出水や市街地での内水氾濫、河口部からの高潮の遡上などの複合災害のリスクにさらされている。経験的に、大規模な洪水と高潮は同時発生しないとされており、津波対策や高潮対策での計画の前提となっている。対して、河川計画では最悪の場合の洪水では同時発生するという想定としている。気候変動ではその関係はどう変換していくのかを分析した。過去の災害事例によれば、台風が直撃して高潮が発生する場合には、降雨は台風の通過時のみ発生し、強度は強くても継続時間が短く大規模な出水にはならない。逆に大規模な出水の原因は、遠隔地を台風が通過し、水蒸気を四国上空に送り込み長時間に渡って降雨が発生することであり、高潮は発生しない。

 高潮については、風速・風向・気圧などを活用した経験式により高さが推定される。5kmRCMを対象に鏡川で700m3/s以上の洪水イベントにおいて、高潮の高さを推定した。現在再現では大規模な洪水である場合には高潮は発生せず、高潮が発生している場合には洪水は小規模に限定さえており、これまでの現象がよく再現出来ているといえる。

 将来予測でもこの傾向は残るが、中規模の洪水と高潮が同時発生するように変化した。また、現状での河川施設で被害が出る可能性は低いが、内水排除に影響を及ぼすことが示唆された。

今後は、データベースによる検索で豪雨発生事例や台風接近事例を抽出することが出来れば、過去の防災インフラ整備計画のモデルと組み合わせることで、自治体の関係者でも影響評価が可能になる。

 以上のように、実際に適応策としての防災政策を立案するには、洪水リスクが高まる、という定性的な傾向だけではなく、地域ごとの災害特性やインフラに着目した影響評価が必要である。また、データベースの有用性も明らかになった。