[ACG60-10] 地域循環共生圏のための森林シミュレーションモデルを用いた気候変動下でのバイオマス供給ポテンシャルの将来予測
キーワード:地域循環共生圏、気候変動影響、RCPシナリオ、地上部バイオマス、LANDIS-II
人口減少が加速する日本では,地域の自然資源や生態系サービスを地域内外に供給しつつ資金や人材などを地域に還元する地域循環共生圏の構築が重要である.特に国土の約70%を占め,化石燃料代替効果がある森林バイオマス資源への期待が高まっている.一方で,気候変動が地域の森林に影響を及ぼすことが懸念されるため,木質バイオマス資源の持続可能性についてのシミュレーションが求められている.本研究では,気候変動下で森林動態と木質バイオマスの供給ポテンシャルの将来予測をシミュレーションすることで,地域循環共生圏の成立要件の評価を目的とする.
木質バイオマス発電による地域循環型スマートコミュニティーが構築されている福島県奥会津地域を対象地域に選定した.森林景観シミュレーションモデルLANDIS-IIで,RCP (Representative Concentration Pathways) シナリオ下での2050年までの地上部バイオマス量の変化をシミュレーションした.
LANDIS-IIモデルでは,樹種別の成長量は,収穫表の実測値に合わせて調整し,モデルに入力する植生の初期状態は福島県の民有林の森林簿から設定した.将来気候データには,農研機構が1 km解像度に統計的ダウンスケーリングを施したCMIP5の2種類の全球気候モデル (MIROC-5,MRI-CGCM3) のRCP2.6および8.5シナリオを用いた.空間分解能は500 mに設定し,2018年から2050年までの森林動態を,気候シナリオと気候モデルの4つの組合せと,現在気候が継続する場合の合計5つのケースで,10回ずつモンテカルロシミュレーションにより樹種・樹齢別のコホートの成長を動的に計算した.
町村別 (柳津町,三島町,金山町,昭和村,只見町) に,2050年までの地上部バイオマスの増加量を計算した.モンテカルロシミュレーションの結果をアンサンブル平均して気候シナリオ別のバイオマス供給ポテンシャルを算出した.これらのバイオマスをペレットで熱利用すると仮定して,バイオマス熱エネルギーの供給ポテンシャルに変換した.各町村ごとに,2012年時点の総エネルギー需要を自給できるか評価し,奥会津地域外に提供可能な余剰のエネルギー量を推計した.
Figure 1は,RCPシナリオ・気候モデル別の地上部バイオマス量の経年変化を表す.2018年から2050年にかけて,気候変動なしのケースを含むすべてのケースで地上部バイオマスが増加した.RCP2.6とRCP8.5シナリオでは,2018年から2050年に地上部バイオマスは平均して17%増加した.その増加した地上部バイオマス量のうち,広葉樹林が95%を占めていた.
MIROC5モデルのRCP8.5シナリオ,MRI-CGCM3モデルのRCP2.6と8.5シナリオでは,2050年の地上部バイオマス量は,それぞれ平均で1.9 [Tg-C],1.8 [Tg-C],2.1 [Tg-C] に増加した.この増加量は気候変動なしのケースに比較して,ウィルコクソンの順位和検定で5 %水準で有意であった.
Figure 2に,2012年時点のエネルギー需要量とRCP2.6と8.5シナリオのバイオマス熱エネルギーの供給ポテンシャルを町村別に示す.全町村で供給ポテンシャルは需要量を上回り,特に只見町では,RCP2.6では需要量の1.7倍,RCP8.5では需要量の2.3倍の供給ポテンシャルがあった.ただし,気候変動によって増加したバイオマスは,自然環境が厳重に保護されている保存地区やユネスコエコパーク内の広葉樹のブナである.バイオマスの熱利用を行う際には,文化的サービスなど森林が持つ生態系サービスとのトレードオフを考慮した利活用計画を立てなければならない.
木質バイオマス発電による地域循環型スマートコミュニティーが構築されている福島県奥会津地域を対象地域に選定した.森林景観シミュレーションモデルLANDIS-IIで,RCP (Representative Concentration Pathways) シナリオ下での2050年までの地上部バイオマス量の変化をシミュレーションした.
LANDIS-IIモデルでは,樹種別の成長量は,収穫表の実測値に合わせて調整し,モデルに入力する植生の初期状態は福島県の民有林の森林簿から設定した.将来気候データには,農研機構が1 km解像度に統計的ダウンスケーリングを施したCMIP5の2種類の全球気候モデル (MIROC-5,MRI-CGCM3) のRCP2.6および8.5シナリオを用いた.空間分解能は500 mに設定し,2018年から2050年までの森林動態を,気候シナリオと気候モデルの4つの組合せと,現在気候が継続する場合の合計5つのケースで,10回ずつモンテカルロシミュレーションにより樹種・樹齢別のコホートの成長を動的に計算した.
町村別 (柳津町,三島町,金山町,昭和村,只見町) に,2050年までの地上部バイオマスの増加量を計算した.モンテカルロシミュレーションの結果をアンサンブル平均して気候シナリオ別のバイオマス供給ポテンシャルを算出した.これらのバイオマスをペレットで熱利用すると仮定して,バイオマス熱エネルギーの供給ポテンシャルに変換した.各町村ごとに,2012年時点の総エネルギー需要を自給できるか評価し,奥会津地域外に提供可能な余剰のエネルギー量を推計した.
Figure 1は,RCPシナリオ・気候モデル別の地上部バイオマス量の経年変化を表す.2018年から2050年にかけて,気候変動なしのケースを含むすべてのケースで地上部バイオマスが増加した.RCP2.6とRCP8.5シナリオでは,2018年から2050年に地上部バイオマスは平均して17%増加した.その増加した地上部バイオマス量のうち,広葉樹林が95%を占めていた.
MIROC5モデルのRCP8.5シナリオ,MRI-CGCM3モデルのRCP2.6と8.5シナリオでは,2050年の地上部バイオマス量は,それぞれ平均で1.9 [Tg-C],1.8 [Tg-C],2.1 [Tg-C] に増加した.この増加量は気候変動なしのケースに比較して,ウィルコクソンの順位和検定で5 %水準で有意であった.
Figure 2に,2012年時点のエネルギー需要量とRCP2.6と8.5シナリオのバイオマス熱エネルギーの供給ポテンシャルを町村別に示す.全町村で供給ポテンシャルは需要量を上回り,特に只見町では,RCP2.6では需要量の1.7倍,RCP8.5では需要量の2.3倍の供給ポテンシャルがあった.ただし,気候変動によって増加したバイオマスは,自然環境が厳重に保護されている保存地区やユネスコエコパーク内の広葉樹のブナである.バイオマスの熱利用を行う際には,文化的サービスなど森林が持つ生態系サービスとのトレードオフを考慮した利活用計画を立てなければならない.