JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW32] 水圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸まで

コンビーナ:伴 修平(公立大学法人 滋賀県立大学)、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)、細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)、前田 守弘(岡山大学)

[AHW32-P16] 草津白根山火山からの物質供給および人為が周辺水環境に与える影響

*猪狩 彬寛1小寺 浩二2浅見 和希1 (1.法政大学大学院、2.法政大学)

キーワード:水環境、火山、草津白根山、河川、温泉

Ⅰ はじめに
 海洋国である日本では、上流域と沿岸域との物質収支や水収支の把握が重要であり、河川流域内での森林や農地、都市、工場、その他陸上生態系の沿岸への影響の管理には、流域全体の理解が必要である(向井 2012)。特に火山地域における火山体内部に貯留された地下水は重要な水資源として古くから活用された(Yamamoto 1995)。一方、火山体周辺の酸性河川はその流域の生態系、水源開発、治水などに大きな影響を及ぼす(松田ほか 1967、武藤 1978、後藤 1982、小坂 1982)。本研究では草津白根山周辺河川・湖沼・降水の水質を通して、主に火山体から供給された物質が水質に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 地域概要
 草津白根火山は、白根山(2,183m)の南方に逢ノ峰(2,110m)及び本白根山(2,176m)があり、この三つの火砕丘群から構成される。周辺には、草津温泉に代表される湧出量が多く、泉温が高く、強酸性の温泉の湧出が各所に見られる。吾妻川流域に見られる酸性水は、同地域周辺の酸性温泉水および酸性硫黄鉱山廃水に起因しているが、酸性源のひとつである草津温泉を主体とした湯川流域については、中和事業が行われている(大井ほか 1991)。

Ⅲ 研究方法
 2017年5月から2019年10月までの23回にわたり、草津白根山周辺の9つの流域内で、46地点の河川水、4地点の降水・積雪、4地点の湖沼を対象に、現地調査(気温、水温、EC:電気伝導度、pH、RpH、流量)の測定とサンプリングをし、実験室にて濾過を済ませた後、一部試料の溶存成分分析(TOC、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-、HCO3-、NO3-、SO42-)を行った。

Ⅳ 結果・考察
 西麓に位置する万座川流域では、硫酸の割合が高い地下水の流入の影響を受けた河川が多いが、噴気口群に近い渓流では塩化物が付与された水質組成が見られた。同一山体であっても地下水の湧出する地点や標高で、組成が変わることは、地下での物質供給のプロセスに差異があることを示している。また、生活排水の影響を受けた水質組成も見られ、特定の成分濃度が卓越した地域でも、人為起源の影響を議論できる可能性がある。
 南麓の南北に連なる小流域では、源流部の標高や火口からの距離と、硫酸カルシウム型水質の濃度が関連している。流域源流部が火口に近ければ、河川水質も火山性の成分を多く含んだものとなり、流域源流部が火口から離れたところでは、火山性成分が薄まる一方で、周辺に分布する畑地の影響が現れる。
 山体東側の湯川流域では硫酸カルシウム型に塩化物が付加された水質組成となる。地下熱水系の中で塩化物の湧出過程が東麓と西麓で異なっている。湯川流域内の強酸性河川(湯川・谷沢川・大沢川)は中和処理された後、導水管を通り白砂川中流や、白砂川・吾妻川合流点へと流下するが、その影響は吾妻川本流にも強く出ている。白砂川中流域にも小河川がいくつか存在するが、草津温泉から離れた流域であるほど、火山性成分が薄まり、重炭酸カルシウム型の水質へと遷移していく。白砂川上流部の小河川でも同様の現象が見られ、草津白根山の存在する方角とは異なる、北側から流下する河川は重炭酸カルシウム型を、草津白根山が存在する西側から流下する河川は硫酸カルシウム型に近い水質組成を示した。
 万座川から白砂川間の吾妻川においては、激しい水質変動が見られる。上流側である万座川合流点近くの吾妻川では、周辺の畑地から供給された硝酸イオンと万座川から供給される、硫酸イオンに卓越した水質種を示すが、流下とともに、草津白根山側から、熱水起源の影響を受けた河川水が流入し、対象地域内の吾妻川下流部では、温泉排水の処理水とほぼ同じ水質組成となる。

Ⅴ おわりに
 熱水系の発達した火山体の研究は、国内外でも多く取り上げられてきたが、特定の課題・対象に絞られたものが多く、山体全体の水環境を議論したものは少ない。強酸性排水の影響が出ている河川だけでなく、火口から離れている渓流水や湖沼、降水を扱うことで、自然的影響・人為的影響を評価でき、幅広い分野で対象地域を議論することができた。