JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW32] 水圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸まで

コンビーナ:伴 修平(公立大学法人 滋賀県立大学)、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)、細野 高啓(熊本大学大学院先端科学研究部)、前田 守弘(岡山大学)

[AHW32-P19] 北海道河川における流量年々変動の解析に基づく冬の降雪量推定法および古冬季モンスーン変動復元への応用可能性の検討

*丸山 亜伊莉1入野 智久1 (1.北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 生物地球化学コース )

モンスーン(季節風)とは,日射に対する大陸と海洋の加熱特性の違いから生ずる風であり(Tada, 2005),東アジアにおいても気温・降水季節変動の主要な原因の一つである。例えば降雪の主要な要因の一つに大陸からの冷たく乾いた風(冬季モンスーン)が挙げられ,また東アジア全域で確認される現象である梅雨が発生する時期には,湿った風(夏季モンスーン)が北太平洋を回り込んで梅雨前線に流れ込むことにより湿舌という現象が発生する。堆積物を使用した夏季モンスーンの復元は幅広く行われているが(Ikehara and Itaki, 2005),その一方で冬季モンスーンをはじめとした冬季の古気候要素の研究は,夏季の古気候復元ほど進展していない。そこで今回の研究では,日本内では亜寒帯気候に位置する北海道の河川流量の年々変動の解析を行い,その気候(降水量,降雪量など)との関係を検討することによって,河川懸濁供給量に制御される堆積物のフラックス変動から,過去の冬の降雪量の推定する方法の開発を試みた。

 国土交通省の水文水質データベースから,北海道に分布する13の一級河川について,10年間(2006-2016)の最下流の観測点における流量データを取得し,R言語を使用して主成分分析(PCA)を行った。欠測値は各河川における10年間の流量の平均値を代入して補間した。その結果,全13個の主成分が得られるが,今回の研究で注目したのは,全ての河川に共通の流量変動パターンを示す主成分1(PC1)とエリアごとの流量の違いを抽出している主成分2および3(PC2,PC3)の3個のスコアである。

 主成分スコア(各主成分の年々変動)の極大および極小値の形状および発生する時期から,スコアの概要を以下のように推定した。

1. PC1はその主成分スコアから,北海道河川全体の傾向を表し,北海道河川の流量は主に夏季~秋季の降雨と,春季の融雪に依存していることを示している

2. PC2は主成分負荷量が日本海側河川で負,オホーツク海側河川で正の大きな絶対値を示し,日本海側河川とオホーツク海側の流量パターンの対比であり,オホーツク海側は夏季~秋季の降雨,日本海側は春季の融雪を指す

3. PC3は主成分負荷量が太平洋側河川で負,オホーツク海側河川で正の大きな絶対値を示し,太平洋とオホーツク海側の対比であり,オホーツク海側は春季の融雪,太平洋側は夏季~秋季の降雨を指す

 PC2スコアの極値のタイミングと年間降雪量の関係から,オホーツク海側と日本海側の河川懸濁物フラックスの比較によって,日本海側の春の河川水流量を通して降雪量を復元できる可能性がある。一方,PC2とPC3両方のスコアの極値の絶対値が大きくなる日時を検討したところ,融雪による河川流量の増加は気温にも依存しているらしいことも判明した。融雪量は主に日射量に支配されている(Chikita,1994)ことから,考察と検討を進めていくには,降水量と降雪量のみならず,今後,気温や日射量のデータもさらに比較検討する必要がある。