[AHW34-03] 阿蘇・本塚火山地域の地下水に残された熱水活動の記録
キーワード:阿蘇、本塚火山、地下水、熱水活動
阿蘇カルデラ内の阿蘇にある本塚,北塚,灰塚の3つの小丘は本塚火山と呼称され,阿蘇火山の最後のカルデラ噴火である阿蘇4の後に活動し(46000年前:渡辺,2001),中央火口丘群に分類される.本塚火山を含む阿蘇谷の中央部から南西部にかけては鉄(Fe)を含む地下水が広範囲に分布しており,赤水型地下水と呼ばれ,Ca-SO4型水質で,阿蘇火山の他のエリアの地下水に比べて相対的に酸性度と水温が高い(例えば,田中,2000).本研究では,本塚火山とその周辺で地下水の同位体地球化学的調査を行い,地下水水質の成り立ちについて考察したので報告する.なお,本研究は,原子力規制委員会原子力規制庁 「平成28~30年度火山影響評価に係る技術知見の整備」として実施したものである.
調査地域の地下水のほとんどは井戸水で,夏期に農業用水としてポンプによる揚水を行なっているが,冬期の農閑期に揚水を止めると,その多くは自噴井となる.2016年から2017年にかけて,調査地域全体を網羅するように,自噴井を中心に,揚水を止めている時期にも自噴しない井戸(動力揚水井)から地下水を採取した.また,湧水もいくつか確認できたので,それらも採取した.現地では水温,電導度,pH,ORPの測定をし,一般水質,FeおよびAlの濃度,水ならびに溶存成分の各種同位体分析(水のδDとδ18O, 全溶存炭酸(DIC)のδ13C,硫酸(SO4)イオンのδ34S,溶存ガスの3He/4He比と4He/20Ne比)用にそれぞれ試料水を採取した.
本調査地域の地下水・湧水は,従来の情報のようにFeイオンを含むCa-SO4型の水質であり,δD-δ18O組成から地下水や湧水の起源は天水である.酸性度はあまり高くないが,主要陰イオンであるSO4イオン濃度とFeイオン濃度の間には相関性が認められ,硫酸酸性による岩石からのFeの溶出過程の存在が示唆された.SO4イオンの濃度とδ34S値の関係を検討したところ,本地域の地下水SO4は3つの異なる起源の端成分の混合物として説明できた.そのうちのδ34S値が低い2つは,対応する試料水のDICのδ13Cから(-15.5‰,-13.9‰),いずれも土壌に由来すると推定された.小川ほか(2006)は阿蘇谷の赤水の硫黄同位体研究から,SO4の起源物質として,降水に含まれる火山ガス由来のエアロゾルや阿蘇谷に広く分布する黒泥土中の黄鉄鉱の酸化溶解物を想定しているが,土壌由来の端成分はこれらに対応するとして問題ない.一方,高SO4濃度でδ34S値が高い端成分(16‰程度)は,それに近い試料水がマグマ起源CO2の混入を受けて高いδ13C値を示すDICを含有することや溶存Heがマントル成分の影響を受けていることなどから火山ガス起源であり,高いδ34S値は火山ガス由来のSO2が水熱条件下で自己酸化還元反応によって生じた可能性を強く示唆する.
そのようなSO2の自己酸化還元反応で生成する硫酸により,本塚火山の地下水は形成当初は強い酸性であったと考えるのは自然であり,本塚火山の主活動時期には,高温で酸化的な火山ガスの影響下で形成されるとされている高硫化系の熱水環境(例えば,田口,2010)が生じていたと考えることができ,その熱水活動の衰退とともに岩石との中和反応が優勢になって現在のような液性(弱い酸性から中性)の低温の地下水系に移行したものと推測される.
調査地域の地下水のほとんどは井戸水で,夏期に農業用水としてポンプによる揚水を行なっているが,冬期の農閑期に揚水を止めると,その多くは自噴井となる.2016年から2017年にかけて,調査地域全体を網羅するように,自噴井を中心に,揚水を止めている時期にも自噴しない井戸(動力揚水井)から地下水を採取した.また,湧水もいくつか確認できたので,それらも採取した.現地では水温,電導度,pH,ORPの測定をし,一般水質,FeおよびAlの濃度,水ならびに溶存成分の各種同位体分析(水のδDとδ18O, 全溶存炭酸(DIC)のδ13C,硫酸(SO4)イオンのδ34S,溶存ガスの3He/4He比と4He/20Ne比)用にそれぞれ試料水を採取した.
本調査地域の地下水・湧水は,従来の情報のようにFeイオンを含むCa-SO4型の水質であり,δD-δ18O組成から地下水や湧水の起源は天水である.酸性度はあまり高くないが,主要陰イオンであるSO4イオン濃度とFeイオン濃度の間には相関性が認められ,硫酸酸性による岩石からのFeの溶出過程の存在が示唆された.SO4イオンの濃度とδ34S値の関係を検討したところ,本地域の地下水SO4は3つの異なる起源の端成分の混合物として説明できた.そのうちのδ34S値が低い2つは,対応する試料水のDICのδ13Cから(-15.5‰,-13.9‰),いずれも土壌に由来すると推定された.小川ほか(2006)は阿蘇谷の赤水の硫黄同位体研究から,SO4の起源物質として,降水に含まれる火山ガス由来のエアロゾルや阿蘇谷に広く分布する黒泥土中の黄鉄鉱の酸化溶解物を想定しているが,土壌由来の端成分はこれらに対応するとして問題ない.一方,高SO4濃度でδ34S値が高い端成分(16‰程度)は,それに近い試料水がマグマ起源CO2の混入を受けて高いδ13C値を示すDICを含有することや溶存Heがマントル成分の影響を受けていることなどから火山ガス起源であり,高いδ34S値は火山ガス由来のSO2が水熱条件下で自己酸化還元反応によって生じた可能性を強く示唆する.
そのようなSO2の自己酸化還元反応で生成する硫酸により,本塚火山の地下水は形成当初は強い酸性であったと考えるのは自然であり,本塚火山の主活動時期には,高温で酸化的な火山ガスの影響下で形成されるとされている高硫化系の熱水環境(例えば,田口,2010)が生じていたと考えることができ,その熱水活動の衰退とともに岩石との中和反応が優勢になって現在のような液性(弱い酸性から中性)の低温の地下水系に移行したものと推測される.