JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW34] 同位体水文学 2020

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW34-06] 東京都品川区の浅層地下水の起源に関する地球化学的研究

伊東 優希1、*安原 正也1李 盛源1中村 高志2稲村 明彦3浅井 和由4浅井 和見4 (1.立正大学地球環境科学部、2.山梨大学国際流域環境研究センター、3.(国研)産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、4.(株)地球科学研究所)

キーワード:東京、浅層地下水、同位体、地下水の起源、下水漏水、水道漏水

1995年の阪神・淡路大震災を機に,都市の「自己水源」である地下水,特に浅層地下水への関心が高まっている.しかし,都市の地下水は長年にわたって利用を制限され人々の関心の外に置かれてきたこと,また都市の地下の水環境は人工構築物中の水(水道水や下水)と地下水との交流の発生によって複雑化していることが原因となり,都市の地下水の水質や利用可能量などその詳細な実態については不明のままである.そこで,日本を代表する人口密集地である東京都品川区の北品川地区と南品川地区の浅層地下水を対象に,都市の地下水の水質の実態(現状)把握,ならびに(1)降水浸透水,(2)水道漏水,(3)下水漏水が都市の地下水涵養に果たす役割を定量化することを目的とした研究を実施した.その結果を報告する.
 北品川地区で調査対象とした7本の浅井戸は,東西約100 m,南北約60 mという極めて狭い範囲内に位置している.しかし,2019年2月には電気伝導度(EC):38.6~67.6 mS/m,Cl-濃度:17.4~30.2 mg/L,NO3-濃度:1.6~34.1 mg/L,HCO3-濃度:112.2~290.1 mg/Lと,地下水水質の著しい違いが地点間に認められた.夏期豊水期である2019年7月についても同様で,EC:38.5~53.1 mS/m,Cl-濃度:15.7~42.3 mg/L,NO3-濃度:0.0~34.8 mg/L,HCO3-濃度:116.4~242.0 mg/Lと著しく不均質な水質を呈した.これは,地下水形成に果たす(1)降水浸透水,(2)水道漏水,(3)下水漏水の役割の相対的な違いを示唆している.さらに自然状態を超えるCl-濃度やNO3-濃度から,下水の混入が点源的に発生していると考えられる.涵養後の地下水の水質変化について検討すると,Cl-濃度と比べてNO3-濃度が著しく低下している一方で,HCO3-濃度の上昇が認められることから,北品川地区の地下水中では脱窒反応が進行しているものと推察される.なお,南品川地区の3本の浅井戸については,その地下水のCl-濃度やNO3-濃度は北品川地区に比べて低く,ほぼ均質な水質組成を有していた.
 水の酸素安定同位体比(δ18O)とCl-濃度に基づく(1)降水浸透水,(2)水道漏水,(3)下水漏水をエンドメンバーとした3成分混合解析の結果,地下水涵養に果たす下水漏水の寄与率は北品川地区においては2019年2月には2-34%,また同年7月には13-51%であった.このように,冬期渇水期に比べて夏期豊水期の方が下水漏水の寄与率が高かった.また,降水浸透水の寄与率は,2月と7月の両地区のいずれの地点においても約50%以上と高く,南品川地区では最大99%であった.東京都品川区の地表面被覆率は現在約80%を超えていることを考えると,これは地表面からの浸透に加え,雨水排水管等の破損箇所を通じての地下における雨水の漏出が原因ではないかと推察される.今後さらなる調査・検討が必要となろう.