JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW34] 同位体水文学 2020

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW34-07] 水の安定同位体比に基づく間伐による地下水涵養および涵養メカニズムの変化の推定

*大桃 早貴1恩田 裕一1Mohamed Boutefnouchet1邱 湞瑋2五味 高志2Hudson Sean3張 宇攀1Hudson Janice3 (1.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター、2.東京農工大学農学研究院国際環境農学部門、3.筑波大学生命環境系)

キーワード:Preferential flow、ゼロテンションライシメーター

日本の総陸地面積の66 %以上を覆う森林は複雑な地形を特徴とする丘陵地帯に分布しており、その約41 %が植林地です。近年の気候変動により、渇水や集中豪雨のリスクが増大していることから、日本の森林の多くを占めている人工林が持つ水涵養機能の重要性がより高まっている。しかし、放置された人工林では樹冠の閉鎖によって林内の光環境が悪化し、林床の裸地化が進み、表面流や土壌浸食が発生している。このような荒廃人工林を改善するには、林床に日光が届きやすくなるような強度間伐を行い下層植生の導入を図ることであるという。

間伐による林内環境への影響を調査した既存研究は多数あり、その中に間伐による地下水を涵養する土壌水の変化を調査した研究も多数存在する。しかし、地下水を涵養する土壌水にはMatrix flowとPreferential flowの2種類があり、この2つの土壌水を別々に採取し分析をしなければ正しく土壌水の動態を考察することができないが、そのほとんどの研究で土壌水としてPreferential flow以外、もしくはPreferential flowのみを採取、分析した結果を議論している。そこで、本研究では異なる林分構造や植生分布における土壌水の水の安定同位体比の違いを明らかにすることで間伐による地下水を涵養する土壌水の変化について検討することを目的とした。

土壌水は60kPaの圧力をかけるSuction LysimeterとZero tension lysimeterの両方を用いることにより、Matrix flowとPreferential flowを別々に採取した。また、Zero tension lysimeterはこれまで集水プレート上土壌の不飽和による収集効率の低さやプレート挿入による土壌の崩壊などの問題を改善するモジュール型Zero tension lysimeterを用いた。そのほか、林内雨、林外雨の採取、土壌水分率、土壌水ポテンシャル、土壌面蒸発量、日射量の測定も行った。土壌水分率の測定には土壌水分計EC-5, ECHOとODYSSEYを使用し、土壌水ポテンシャルにはテンシオメーター、土壌面蒸発量にはWeighing lysimeterで得た値を、日射量にはPARセンサーを使用した。採取した水はPicarro L2120-i δD/δ¹⁸O Isotopic Water Analyzerを用いて水の安定同位体比を測定した。そして、水の安定同位体比の違いから異なる植生分布が土壌水に与える影響を検討した。

Matrix flowは樹冠が開けているところと閉鎖しているところとでは樹冠が開けているところの方が同位体的に重く、下層植生があるところとないところでは下層植生がないところの方が同位体的に重くなる傾向にあった。また、土壌水が採取された深さが深くなるほど、同位体比の時系列変化が小さくなることから、Matrix flowは土壌中を深部へ移動している過程で混合があることが考えられる。Preferential flowは深さ10cm、30cmのどちらでも林内雨とほとんど同じ水の安定同位体比を示す傾向にあるが、樹冠が閉鎖しているところよりも樹冠が開けているところの方がやや重くなる傾向にあった。また、特に大雨時にPreferential flowと林内雨の同位体比が近くなる傾向が強くみられる一方で、小雨時はMatrix flowと混ざっていることを示唆するような傾向が見られた。また、異なる植生の分布による林内雨の水の安定同位体比の違いはほとんど見られなかった。
以上のことから地下水を涵養する土壌水は、荒廃することで同位体的に重くなり、間伐直後、地面蒸発が増加することでさらに重くなるものの、下層植生や樹冠が成長していくにつれて軽くなることが分かった。