[AHW34-P03] 赤城山の山頂に出現する一時的な湖沼「血の池」におけるヤマヒゲナガケンミジンコ(Acanthodiaptomus pacificus)の生活環について
キーワード:赤城山、淡水性かいあし類、炭素・窒素同位体、一時的な湖沼、ヤマヒゲナガケンミジンコ、 水圏生態学
赤城山の山頂部の標高1450 m付近に位置する「血の池」(面積約0.008 ㎢)は、初夏から秋にかけて一時的に湖水が出現する湖沼‘’ephemeral lake‘’として知られている。「血の池」には魚類が生息しておらず、その生態系は主にプランクトンから構成されている。その優占種がヤマヒゲナガケンミジンコ(Acanthodiaptomus pacificus)である。A. pacificusの生態は門田(1971)やTaylor et al.(1990)など複数の研究例が報告されている。しかし、これらの従来の研究の多くは年間を通して水を湛えている湖沼を対象にしたのであり、「血の池」のような一時的に湖水が出現する湖沼におけるA. pacificusの生態についての研究例は少ない。そこで本研究では、このような一時的に形成される湖沼に生息するA. pacificusの生活環を中心とした生態を明らかにすることを目的とし、2018年6月から2019年12月にかけて現地調査を実施した。
2018年には、10月1日~10月19日の期間中に最大水深98 cm(10月3日)の湖水が出現した。2019年には、6月22日~9月29日の期間中に最大水深約180 cm(8月29日),また10月12日~12月中旬の期間中に最大水深約200 cm(10月中旬)の湖水が出現した。2019年のこれら2回の湖水出現期間の間には約13日の湖水の枯渇期間があった。
本研究では、2018年と2019年に湖水が出現していた上記の期間中、計7回の調査を行った。2018年には「血の池」の13地点から同一地点における深度方向のサンプルを含む計17試料、2019年には3~4地点から同じく4~21試料(4 Lの湖水を32 ㎛メッシュのプランクトンネットにて濾過したもの)を採取した。それらの試料を実験室に持ち帰り、試料中の個体数の計測と雌雄の判別を行った。また、湖水が枯渇していた2018年6月と12月の調査時には、6月と12月とも同じ11地点において表層土壌を採取し、その中から休眠卵の発見を試みた。さらに、「血の池」の湖底に産み落とされる休眠卵を採取する目的で、2019年9月~12月にかけて沈降トラップを「血の池」の2地点に設置した。
計7回の個体採取のうち、6回の調査では深度方向の個体採取を行った。そのうち、成長ステージのピークが成体およびコペポダイト幼生であった4回の調査(2018年10月16日、2019年7月8日、11月15日、12月8日)においては、水深が深くなるにつれ個体密度が増す傾向が認められた。しかし、ノープリウス幼生がピークであった2回の調査(2019年9月2日、11月1日)では表層付近の方が高密度となった。
一方、成長速度をみると、いずれも約2週間という期間中、水温4 ℃ではノープリウス幼生前期からコペポダイト幼生前期(2019年11月1日〜11月15日)、水温10 ℃では孵化からコペポダイト幼生中期(2018年10月1日〜10月16日)、水温17 ℃では孵化から成体(2019年6月22日〜7月8日)へと成長ステージのピークが移行したことが確認された。これらのことから、「血の池」におけるA. pacificusの成長にとって最適な水温は17 ℃前後である事が明らかとなった。
窒素・炭素安定同位体比に基づく検討の結果,赤く染まった湖水のPOMの窒素・炭素安定同位体比の値は湖水のPOMの値とA. pacificusの値を結んだ直線上にプロットされることから,「血の池」の湖水が赤くなる原因の1つとして,A. pacificusから滲出した窒素や炭素を含む有機物質が湖水と混合していることが明らかとなった。一方,「血の池」におけるA. pacificusの食性は現段階では未解明である。今後、「血の池」に生息する動植物プランクトンをさらに詳細に分類し,それらの窒素・炭素安定同位体比に基づいてA. pacificusの食性の解明を試みる予定である。
2018年には、10月1日~10月19日の期間中に最大水深98 cm(10月3日)の湖水が出現した。2019年には、6月22日~9月29日の期間中に最大水深約180 cm(8月29日),また10月12日~12月中旬の期間中に最大水深約200 cm(10月中旬)の湖水が出現した。2019年のこれら2回の湖水出現期間の間には約13日の湖水の枯渇期間があった。
本研究では、2018年と2019年に湖水が出現していた上記の期間中、計7回の調査を行った。2018年には「血の池」の13地点から同一地点における深度方向のサンプルを含む計17試料、2019年には3~4地点から同じく4~21試料(4 Lの湖水を32 ㎛メッシュのプランクトンネットにて濾過したもの)を採取した。それらの試料を実験室に持ち帰り、試料中の個体数の計測と雌雄の判別を行った。また、湖水が枯渇していた2018年6月と12月の調査時には、6月と12月とも同じ11地点において表層土壌を採取し、その中から休眠卵の発見を試みた。さらに、「血の池」の湖底に産み落とされる休眠卵を採取する目的で、2019年9月~12月にかけて沈降トラップを「血の池」の2地点に設置した。
計7回の個体採取のうち、6回の調査では深度方向の個体採取を行った。そのうち、成長ステージのピークが成体およびコペポダイト幼生であった4回の調査(2018年10月16日、2019年7月8日、11月15日、12月8日)においては、水深が深くなるにつれ個体密度が増す傾向が認められた。しかし、ノープリウス幼生がピークであった2回の調査(2019年9月2日、11月1日)では表層付近の方が高密度となった。
一方、成長速度をみると、いずれも約2週間という期間中、水温4 ℃ではノープリウス幼生前期からコペポダイト幼生前期(2019年11月1日〜11月15日)、水温10 ℃では孵化からコペポダイト幼生中期(2018年10月1日〜10月16日)、水温17 ℃では孵化から成体(2019年6月22日〜7月8日)へと成長ステージのピークが移行したことが確認された。これらのことから、「血の池」におけるA. pacificusの成長にとって最適な水温は17 ℃前後である事が明らかとなった。
窒素・炭素安定同位体比に基づく検討の結果,赤く染まった湖水のPOMの窒素・炭素安定同位体比の値は湖水のPOMの値とA. pacificusの値を結んだ直線上にプロットされることから,「血の池」の湖水が赤くなる原因の1つとして,A. pacificusから滲出した窒素や炭素を含む有機物質が湖水と混合していることが明らかとなった。一方,「血の池」におけるA. pacificusの食性は現段階では未解明である。今後、「血の池」に生息する動植物プランクトンをさらに詳細に分類し,それらの窒素・炭素安定同位体比に基づいてA. pacificusの食性の解明を試みる予定である。