JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW34] 同位体水文学 2020

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

[AHW34-P09] 沖縄本島南部における浅層地下水の水質とその形成プロセスについて

下地 楓1、*安原 正也1李 盛源1中村 高志2浅井 和由3 (1.立正大学地球環境科学部、2.山梨大学国際流域環境研究センター、3.(株)地球科学研究所)

キーワード:琉球石灰岩、浅層地下水、硝酸性窒素、窒素同位体、滞留時間、水質形成プロセス

沖縄本島南部の地質は,シルト岩を主体とする島尻層群と,琉球石灰岩を主体とする琉球層群から構成される.琉球層群は地下水の主要な帯水層となっており,同層群の分布する地域には多くの湧水がみられる.また,琉球層群分布地帯と比べるとその数は少ないものの,島尻層群分布地帯にも湧水が認められる.これらは,上水道が普及するまでは生活用水をはじめとする各種用水源として大切に利用されてきた.沖縄本島南部では近年,さとうきび畑で使われる化学肥料によって地下水中の硝酸性窒素濃度が大幅に上昇していることが指摘されている.しかし,窒素等の汚染物質の詳細な起源や地下水中での挙動をはじめとする地下水の汚染プロセスは,これまでの研究で十分解明されているとは言い難い.そこで,本研究では,琉球層群が広く分布する沖縄本島南部を対象に,地下水の一般水質,硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比ならびにSF6による地下水の滞留時間の測定結果に基づき,研究地域の浅層地下水の水質の現状把握と詳細な水質形成プロセスを明らかにすることを目的とした.
2019年3月および2019年8-9月に採水した27地点の地下水(湧水,井戸水)の一般水質の分析結果から,沖縄本島南部の地下水はCa-HCO3型の水質組成を示すことが明らかとなった.窒素汚染は調査対象地域の全域で確認され,窒素安定同位体比の測定結果から,化学肥料や有機肥料,家畜糞尿あるいは生活排水の影響を受けて地下水汚染が進んでいるものと推定された.SF6濃度から,琉球層群地帯の浅層地下水の滞留時間は7~19年と求められた.また,硝酸イオンの窒素安定同位体比と硝酸性窒素濃度の関係から,沖縄本島南部では「脱窒」と「混合」という2つのプロセスが地下水の水質形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.さらに,島尻層群を地下水が通過する際に顕著な脱窒が発生・進行する可能性が示唆された.
以上の結果に基づき,沖縄本島南部の地下水の水質形成プロセスを次の4つに分類した.
(Case 1):窒素安定同位体比,硝酸性窒素濃度が高い地下水がそのまま湧出するケース
(Case 2):窒素安定同位体比,硝酸性窒素濃度が高い地下水が,脱窒によって硝酸性窒素濃度が低くなる一方,窒素安定同位体比がさらに高くなったものが湧出するケース
(Case 3):窒素安定同位体比,硝酸性窒素濃度が低い地下水と,窒素安定同位体比,硝酸性窒素濃度が高い地下水が混合したものが湧出するケース
(Case 4):(Case 3)の地下水が,脱窒を受けた地下水(Case 2)とさらに混合した後に湧出するケース
地下水中の窒素の起源の同定やさらに詳細な水質形成プロセスの解明には,空間的に高密度かつ時間的に高頻度のサンプリング・分析を行うことが必要と考えられる.また,硫黄同位体など新たなトレーサーの利用も視野に入れる必要があろう.