JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 陸域と海域をつなぐ水循環と、沿岸域の海洋循環・物質循環

コンビーナ:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、田中 潔(東京大学)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、速水 祐一(佐賀大学)

[AOS18-05] 全球河川モデルと衛星高度計を用いた水面下河川地形の広域推定

*山崎 大1塩澤 拓人1 (1.東京大学生産技術研究所)

キーワード:河川水面下地形、全球河川モデル、衛星高度計

全球河川モデルは,将来洪水リスクの推計からメタンなどの物質循環解析まで多岐に渡って活用されており,その水位や氾濫原浸水率の推定精度の向上が期待されている.モデルの推定精度を左右するものとして地形情報があるが,中でも水面下地形である河道深は広域で直接観測することが難しく,現在は経験式で推定されているために誤差が大きい.水面標高の衛星観測データを用いて河川モデルの河道深をチューニングした研究はあるが,水面標高の推定精度以外の点でそれによるモデル改善は確認されておらず,対象流域のスケールも小さい.

そこで,本研究では,同様にモデルと衛星観測データを用いつつも,水位や氾濫原浸水率など諸変数のモデル推定精度を高め,かつ,実際の河道と比較しても物理的に妥当性の高い河道深の広域推定を目指した.そのために,近年開発された氾濫原標高情報を用いてモデルの誤差を削減するとともに,水面標高のモデル推定誤差が河道深の誤差のみに起因するという単純化を行うことで,河道深を精度よく効率的に推定する手法を開発した.

その後,実際に,強い背水効果などの複雑な水動態が特徴的なアマゾン川流域において開発した手法を適用し,河道深を推定した.推定した河道深の利用によって,水面標高のモデル推定誤差は,衛星観測との比較時に観測点319地点のうち220地点(69.0%)で減少し,現地観測との比較時にも同様に誤差の減少が確認された.さらに,流量や氾濫原浸水率など推定手法に未使用の予報変数についても,モデルの観測再現性の向上を確認した.モデルバイアスを減少させる河道深データの利用は,洪水リスク評価,物質循環推定などの精度向上に加えて,モデルにおいてリアルタイムデータ同化手法の適用可能性の向上に資すると考えられる.

また,予報変数の精度改善のみならず,河道深そのもの推定という側面における手法の妥当性を検証するため,モデルを用いて作成した仮想の真値と観測値を用いるOSSE実験を行った.結果,流出量の不確実性や衛星観測の誤差が一定程度存在する場合においても,河道深を経験式よりも正確に推定できることが示された.一方で,手法で推定した河道深を現地観測横断面データから求めた河道深と比較した結果,依然と大きい誤差(平均6.0m)を有していることが分かった.これより,OSSEでは考慮しきれない河道横断面形状のモデル化に伴う誤差や,氾濫原や河道幅など河道深以外の地形情報の誤差の考慮が,現実に即した河道深を推定するための課題として明らかになった.

このような課題はあるものの,手法の広域への適用性の高さや複数予報変数の推定精度向上の結果から本手法の利用価値は高いと考えられ,全球への適用による全球河道深データセットの整備が今後期待される.