JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS24] Exploring new frontiers of oceanic mixing research in the next decade

コンビーナ:日比谷 紀之(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、安田 一郎(東京大学大気海洋研究所)、Lakshmi Kantha(Aerospace Engineering Sciences, University of Colorado, Boulder, Colorado, USA)

[AOS24-P13] カムチャツカ東岸沖における鉛直混合と栄養塩供給に関する研究

*木村 詩乃1 (1.東京大学)

キーワード:北太平洋西部亜寒帯、ベーリング海、乱流、栄養

ベーリング海及び西部北太平洋亜寒帯・オホーツク海域は、世界有数の高い生物生産に伴う炭酸ガスの吸収海域であり、春から秋にかけて表層の栄養塩及び炭酸系物質濃度が大きく減少する海域である。この栄養塩の減少の一部は下層からの乱流による鉛直方向の栄養塩輸送によって補われると考えられるが、これまで乱流観測が無かったために、密度躍層を横切る栄養塩供給過程は明らかでなかった。本研究では、2018年7月23日から9月14日にかけてのロシアとの共同観測航海によって得られた、当海域で初めての乱流及び栄養塩の同時観測データを用いて、表中層の乱流構造と乱流による栄養塩輸送について調べた。密度躍層に対応する亜表層150mから200m深(ポテンシャル密度26.5-26.6)では、乱流エネルギー散逸率が極大となっており、下層に向かって増加する塩分勾配によって作られる密度成層(浮力振動数N)が極大となるにもかかわらず、乱流鉛直拡散係数)も極大値をとっていた。同時に観測した栄養塩濃度Cの鉛直勾配もこれらの極大と同じ深度で極大となっており、栄養塩乱流鉛直輸送()が極大となる傾向にあり、躍層で強化された乱流は栄養塩を効率的に上方へ輸送していた。これらの極大層は、冬季の表層混合層を表す水温極小層のやや下に分布していたことから、亜表層に存在する強い塩分・栄養塩躍層を弱めて鉛直上向きに塩分・栄養塩を輸送し、冬季に海面に露出する表層混合層に栄養塩を供給する役割を担っていることが示唆された。カムチャッカ海峡での係留多層流速計時系列観測から、乱流及び成層極大が見られた深度付近で、水平流速鉛直シアーが継続的に極大を取ることが明らかになった。また、半日潮汐から慣性周期、慣性周期より長い日周潮汐及び数日周期に渡る、広い周期帯の波動が成層極大付近で水平流速シアを強化する傾向にあり、水平流速シアが乱流の強化と関係することが示唆された。群速度が下向きの近慣性周期をもつ波動振幅が成層極大付近より下層で減衰していたことから、風によって発生した近慣性波が海表面から伝播し、成層極大付近で砕破し、混合強化の一部に貢献した可能性が示唆された。カムチャツカ沖で観測された成層極大付近での乱流栄養塩輸送が一年間続くと仮定して求めた輸送量と、Yasunaka他(2014)の海面での各月栄養塩観測平均データと混合層厚とから見積った生物による単位面積あたりの栄養塩除去量を比較したところ、本研究で求めた栄養塩輸送量は、本海域で春季から夏季に生物によって消費・除去される表層栄養塩量の2-3割(硝酸塩20%、ケイ酸塩30%、リン酸塩26%)を担うことが明らかとなった。