JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と今後

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS26-01] 全球海洋観測システムの発展と今後

★招待講演

*岡 英太郎1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:全球海洋観測システム、分野横断的観測

全球海洋観測システムの発展と将来について、表層水塊の観測的研究を例にとって話したい。私が大学院生だった90年代後半、海洋内部のデータはまだ主に船舶によって測られており、水塊の研究は季節変動についてはWorld Ocean Atlasなどの気候値、年々変動については限られた定線・定点を用いて行われていた。2000年にアルゴ計画が始まり、6、7年で全球観測網が完成し、それから10年以上が経つ。1992年から25年以上続く衛星海面高度観測と併せ、今や2000m以浅のラージスケールの水温・塩分変動はインターネットさえあればどこにいても調べられるようになった。自分自身の研究では、黒潮続流の十年規模変動(Qiu and Chen, 2005)と関連した亜熱帯モード水形成・サブダクションの十年規模変動(Oka et al., 2015, 2019)などが見えるようになった。5年ほど前に、アルゴデータを使って初めて亜熱帯モード水の10年間の時系列が描けたときには感動したが、若い人たちにはピンとこない話かもしれない。

物理変動が分かるようになれば、次はそれによって決まる化学変動、そして生物変動と観測網の構築を進めていくのが当然の流れである。上記の亜熱帯モード水サブダクションの十年規模変動に伴って、気象庁137E線では溶存酸素、栄養塩、炭酸系パラメタの十年規模変動が捉えられた。ただ、これは50年の歴史(Oka et al., 2018)を誇る137E線が存在したからこそできた研究であり、同じものを他の海域で見ようとすると、データの乏しさに驚かされる(Stramma et al., 2020)。幸い、アルゴは今後、2000m以深ならびに生物地球化学(BGC)計測への拡張を目指しており(Roemmich et al., 2019)、10年後にはBGCパラメタの変動が今の水温・塩分と同様に調べられるようになっているであろう。BGCフロートの展開は、米国がSOCCOMプロジェクトのもと、南大洋で先行して進められている。亜熱帯モード水形成・分布域でも、2019年度から始まった新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」の一環として、2020年度初めに酸素・pHセンサー付フロート13台を展開予定である。

アルゴなどの全球観測システムはもちろん、ラージスケール研究だけのためのものではなく、メソ~乱流スケールの研究にも数多く使われている。黒潮・親潮続流域における中央モード水の形成とフロント・渦との関係を調べるために、2013年と2016年に白鳳丸で高解像度の東西測線2本を観測したが、高気圧性渦の中で密度の異なるモード水が鉛直方向に2つ3つと重なる構造が、1つの渦だけではなく隣接する3つの渦に共通して見られた。この構造の形成メカニズムは船舶観測からは推測が難しいが、幸い1つの渦にトラップされていた酸素センサー付アルゴフロートがあった。その時系列を見ると、渦の合併・分離に伴って渦と渦の間、あるいは渦と周辺海域の間で低渦位水の交換が行われているようである。この観測は渦-渦相互作用に伴う新たなサブダクションのメカニズムを示唆しており、観測の発展に伴い、このような比較的小さいスケールの発見も進むことが期待される。