JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と今後

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS26-03] 温暖化・酸性化・貧酸素化時代の持続的な海洋炭素・生物地球化学観測システム

*石井 雅男1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:海洋酸性化、貧酸素化、全球海洋観測システム、炭素循環、生物地球化学、気候変化

近年、人間活動による海洋物質循環への影響評価と将来予測に関する調査・研究は、気候変化の緩和、海洋生態系保全、海洋資源の持続的利用の各観点から、重要性が増している。海洋は、産業活動によって排出されたCO2のおよそ1/4を吸収することで、大気中のCO2濃度の増加を抑制し、地球温暖化の進行を緩和している。今後、CO2の蓄積による海水の化学的性質の変化、海洋循環の変化、生態系の変化によって、その役割がどう変化するかを予測することは、気候変動予測の不確かさ低減における主要なテーマの一つである。また、海洋に吸収されたCO2による海水の酸性化の進行や、温暖化や富栄養化による貧酸素化の進行も多くの海域で報告されており、それらの海洋生態系への変化とその社会への影響も深く懸念されている。これらはIPCC WGIの主要な評価項目であるほか、UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development (2021-2030)において重要な課題となっている。また、海洋酸性化はSDG 14 のターゲットでもある。
 海洋の物質循環や、その大気CO2濃度との関わりに関する研究は、1990年代に国際共同研究Joint Global Ocean Flux Study などを通じて大きく進展した。その後、観測連携推進のためのInternational Ocean Carbon Coordination Project(IOCCP)や、海洋酸性化の調査・研究と情報流通の促進のためのGlobal Ocean Acidification Observing Network(GOA-ON)が設立され、全球海洋観測システム(GOOS)と連携して活発に活動している。しかし、国際研究プロジェクトに関しては、大気・海洋間相互作用に関する研究(SOLAS)、海洋生物圏の研究(IMBeR)、気候・海洋の数値モデリング(CLIVAR)などへの分化が進み、それらの連携は必ずしも強化されなかった。こうした問題を踏まえ、近年、“UN Decade …”への貢献を意図して、UNESCO-IOCの主唱により、観測の立案・実施の連携、データの流通と広域的な解析の促進、データ同化、数値モデリング、そして成果発信に至る一連の“Value Chain”を強化するため、海洋物質循環研究に関連する組織・プロジェクト間の連携の再構築が図られている。観測分野においては、多項目の観測を海面から海底まで高精度で実施できる観測船観測のネットワーク(GO-SHIPや定点時系列観測)や、篤志観測船や係留系による高頻度の表層CO2観測ネットワーク(SOCONET)に加え、化学・光学センサーを搭載したアルゴフロートや水中グライダーそれぞれの高頻度鉛直観測のネットワークをさらにネットワーク化し、船舶観測の高精度データをセンサーデータの検定にも活用して、海洋の物質循環を高頻度・高精度で四次元的に把握できる体制を構築することが急務になっている。
 近年、GO-SHIPなどの観測船観測により、十年規模の海洋循環場の変動に応じた海洋へのCO2吸収速度の変動が明らかになってきた。こうした持続的観測ネットワークのネットワーク化とデータ統合の促進によって、そうした変動がより高い時空間解像度で解明できるようになり、気候変動と海洋物質循環変動のフィードバックの解明、海水のCO2緩衝能低下による人為起源CO2吸収率の低下の予測や、海洋生態系保全に資する生物化学情報の充実化・高度化を図ることができる。もちろん、こうした観測ネットワークの発展は、炭素・生物地球化学野に限らず、海洋科学全体の発展に資するはずである。