JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と今後

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS26-P03] 南大洋における10年スケールの人為起源CO2の時空間変化

*李 勃豊1潘 先亮1柚木 駿1渡辺 豊1 (1.北海道大学)

キーワード:南大洋、大気海洋二酸化炭素の非平衡、人為起源二酸化炭素

【はじめに】
 現在、地球温暖化により炭素循環は急激に変化している。海洋は産業革命から人為起源で放出されたCO2のほぼ30%を吸収し、劇的な環境変動に対して重要な緩衝作用を持っていることがわかっている(Leturre et al., 2016)。IPCC (2013)では、人為起源CO2の海洋への吸収によって、産業革命以降(1750年以降)、海洋のpHが0.1ほど低下し酸性化が進んで、ここ数十年では一年あたり0.002 pHの低下が報告されている。CO2吸収による酸性化の影響は、今後数十年の時間スケールで、極域海洋において炭酸カルシウムを持つプランクトンに影響を及ぼすことが予測されている(Doney et al., 2009)。この変化が全球規模で行っているのかどうかを明らかにするためには、海洋の炭酸系物質の変動を高精度でかつ時空間的に高分解能に捉えることが必要である。
 モデルによる計算では南大洋における人為起源CO2の取込みは全海洋の40%を占めているとの報告もある(Khatiwala et al., 2009)。従って、南大洋での炭酸系物質の時空間変動・変化を把握し、変化の方向と度合いを正しく評価することが重要である。
 本研究は30ºS以南の全海域を対象し、表層からbottom depthまでに適用可能な炭酸系物質のパラメタリゼーションを構築し、人為起源のCO2の鉛直分布および吸収速度を明らかにするとともにことを試みた。

【データとサンプリング】
(i) CO2非平衡量(Cdiseq)と人為起源のCO2(Cant)の鉛直分布
 東京海洋大学「海鷹丸」第55次航海“KARE22_UM-18-08”にて、炭酸系物質全無機炭素(DIC)と全アルカリ度(TA)のサンプリングを海洋表層から海底直上10 mまでの24採水層で行った。期間は2018/12/31–2019/1/27、観測地点は110ºEライン上の40ºS–65ºSで実施されたCTD観測点およびヴィンセネス湾の沖合観測点の16点である。

(ii) DICとpHのパラメタリゼーションの構築
 変数として、溶存酸素(DO)、塩分(S)、温度(T)、圧力(Pr)を候補とし、南大洋南緯30ºS以南を対象として、2000年から2014年の GLobal Ocean Data Analysis Project ver2 (GLODAPv2)のデータを使用した。

(iii) Cantの吸収速度の見積り
 GLODAPv2およびCCHDOの1990年−2017年の観測データ群に基づき、水平分解能1º×1º、鉛直方向0-5900mの合計43層のグリッドデータを作成し、Cant変化量の見積りに使用した。

【結果と考察】
 南大洋におけるCdiseqを求めた結果、その範囲は–70から–10 μmol kg-1で、大きな非平衡が見出された。このCdiseq値の定式化を試みたところ、Cdiseqはポテンシャル水温(θ)との強い相関を持っていた(Cdiseq = 1.766θ – 45.07; R = 0.71, RMSE = 9.05 μmol kg-1)。この式を「海鷹丸」第55次航海にて得られた鉛直データおよびWOAデータセットに当てはめ、Cdiseqのマッピングを行った。南北方向のCdiseqとCanthの分布図から、高密度の海水が存在する高緯度海域において大気から海洋表層へCantが多く吸収されていることがわかった。
 上記の結果を南大洋全体で確かめるため、30ºS以南の全海域において、重回帰モデルに適用することで混合層以下のDICとpHの推定値として以下を得た。

   DICpred = 1442 – 0.6910 DO – 13.20 T + 27.85 S + 2.696・10-3 Pr    (式1)
        (RMSE = 8.0 µmol kg-1, R2 = 0.96)

   pH25,pred = 4.364 + 0.001172 DO + 0.01884 T + 0.08563 S + 4.680・10-6 Pr    (式2)
         (RMSE = 0.014, R2 = 0.97)

ここで、下付きのpredは推定値を意味し、pH25, predは温度25ºCでのtotal scaleのpHである。本研究で得られたDICpredとpH25. predのパラメタリゼーションの精度は8.0 µmol kg-1、0.014 pHであった。これらは10年規模の変動を捉えるには十分である。
 Cantの変化量(ΔCant)は、DIC観測値の変化量(ΔDICobs)と推定値の変化量(ΔDICpred)の差で表すことができる(式3) (Watanabe et al., 2018):

   ΔCant = ΔDICobs - ΔDICpred    (式3)

式(1)-(3)を(iii)のでデータ群に適用することで10年スケールの自然変動のΔDICpred と人為起源変動のΔCantが得られた。1990 年代から、南大洋におけるDIC変化量のうち、自然変動(非人為起源の変動)が約40%、人為起源の変動が約60%を占めていることがわかった。南大洋は巨大な炭素の貯蔵庫であることを明らかにした。