JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS26] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と今後

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS26-P04] 南大洋における人為起源窒素の時空間分布とその内部窒素動態の解明

*潘 先亮1李 勃豊1陳 志崗1渡辺 豊1 (1.北海道大学)

キーワード:南大洋、人為起源窒素、十年変動、窒素収支

【はじめに】

海洋中の窒素は植物プランクトンの一次生産を支え、海洋中の炭素循環と密接な関係がある。近年、大気および河川由来から海洋へもたらされる海洋系外窒素(Nex)が著しく増加し、その中に、人為起源の寄与は約7割を占めていると推定されている[Gruber and Galloway, 2008]。これまで、Duce et al. [2008]および Jickells et al. [2017]は大気モデルを用いて、大気から全球海洋表層へのNex経年沈積速度を推定したが、海洋へもたらされたNexが海洋の中でどのように分布しているのかは不明である。南大洋は主要な深層水形成域であるとともに、海洋系外からの影響を海洋内にもたらす重要な経路であり、さらに人為起源窒素の放出量が大きい発展途上国と広く接している。このため、南大洋におけるNexの動態の見積りは全球の海洋環境変動を理解するうえで重要な研究課題の一つである。

しかし、Nexを海洋中の元々存在する窒素と区別することは未だ難しい。Kim et al. [2014]はN*と水塊年齢を用いて海水中の人為起源窒素の見積もりを試みたが、そのNexの見積りには窒素固定と脱窒の影響が含まれていてその不確かさは大きい。また、広域的な見積もりも難しい。そこで、本研究は海水中の硝酸塩濃度(N)を溶存酸素(DO)・水温(T)・塩分(S)・圧力(Pr)によりパラメタリゼーション化し(cf., Li et al., 2016; Watanabe et al., 2018)、南大洋全域のNの時空間補完を行い、観測値との差分を取ることで南大洋のNexの動態の解明を試みた。

さらに、南大洋内部の窒素動態を解明するために、本研究では、南大洋110°Eラインにおいて海洋内部の窒素収支状況の定量化を行った。



【データとサンプリング】

(i) 海洋統合データベース(GLODAPv2, CCHDO)の1990-2017年、30°S以南、0m–bottomのN, DO, T, S, Prデータを使用(ただし、沿岸域と表面混合層を除く)。
南大洋のN (Np)のパラメタリゼーション開発: 2000-2016年、合計65,257データを使用。 Nex変化量の見積り: 1990-2017年の観測値データに基づき、水平分解能1°x1°、鉛直方向0–5900m の合計43層のグリッドデータを作成・使用。
(ii)東京海洋大学「海鷹丸」第55次南極航海 “KARE_UM-18-08”: 110°Eライン豪州以南およびヴィンセネス湾沖の計17観測点、海洋表層から海底直上10mまでの24採水層のN2, O2, Ar海水サンプル。



【結果と考察】

Npのパラメタリゼーションとして(式1)を得た。



Np = 394.3 - 9.208x10-2·DO - 1.534·T - 9.862·S- 2.029x10-4·Pr    (式1)

(R2 = 0.97, RMSE = 0.80 µmol kg-1)



Nexの変化量(ΔNex)は、観測値の変化量(ΔNobs)と推定値の変化量(ΔNp)の差で表すことができる(式2) [Watanabe et al. 2018]:



ΔNex = ΔNobs – ΔNp         (式2)



これらの式を(i)のデータ群に適用することでΔNexを見積もった。1990年代から2010年代までのΔNexの水中存在量は太平洋、大西洋、インド洋セクターそれぞれ24±1、0.02±0、42±1 Tg-N year-1で、南大洋全体では合計67±1 Tg-N year-1であった(T=1012)。この値は大気から全球海洋表層へもたらされるNex[e.g. Duce et al. 2008; Gruber and Galloway, 2008] の70%と占め、南大洋がNexの海洋表層から海洋内部に入っていく大きな入口であることを見出した。また、南大洋の窒素収支は主に物理過程 (64%) に制御されており、生物過程の影響 (11%) が少ないことから、南大洋表層から海洋内部に入ったNexは水塊運動と共に全球海洋に広がって行くことを示唆していた。