JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS27] 海洋化学・生物学

コンビーナ:三角 和弘(電力中央研究所 環境科学研究所)、安中 さやか(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

[AOS27-06] 北日本のホタテガイ養殖水域における海洋酸性化の現状把握

*森 亜弓美1芳村 毅2工藤 勲2 (1.北海道大学大学院環境科学院、2.北海道大学大学院水産科学研究院)

キーワード:海洋酸性化、ホタテガイ、養殖、炭酸カルシウム

【背景・目的】
 海洋は人為起源の二酸化炭素の約30 %を吸収しており、pHが低下することで海洋酸性化が起きている。酸性化が進むと炭酸イオン濃度が低下し、炭酸カルシウム飽和度(Ω)が低下する。一般に、Ωが3を下回ると、石灰化生物は炭酸カルシウムを沈着しにくくなる。その結果、石灰化生物の生存や成長に影響があるとされている。石灰化生物の中でもカルサイトを形成するホタテガイは北海道の重要な水産資源の一つで、酸性化の影響を受けている可能性がある。また、沿岸域は生産性が高く有機物が多いことが知られており、外洋とは異なる酸性化状態を示す可能性がある。酸性化が進行するとホタテガイ養殖業に影響を及ぼしたり、その水域の生態系が変化する恐れがあるが、その現状は明らかになっていない。そこで、本研究ではホタテガイ養殖施設が存在する北海道のサロマ湖および噴火湾八雲沖、青森県の陸奥湾の三つの水域において海洋酸性化の現状把握を目的に調査を行った。

【材料・方法】
 サロマ湖4地点(2019年5月、6月、8月、10月、12月、2020年2月)、噴火湾八雲沖1地点(2019年6月、7月、8月、11月、2020年1月、2月)、陸奥湾2地点(2019年7月、9月、11月)で海水サンプリングとCTD観測を行った。採取したサンプルは水銀を添加した後、密閉し、採水時の水温と同程度の環境で分析まで保存した。その後、全アルカリ度測定装置を用いて全アルカリ度および溶存無機炭素を測定し、炭酸系計算プログラムCO2sysでpH、ホタテガイの成長影響を評価するためにカルサイト飽和度(ΩCa)、また、他の石灰化生物の成長影響を観察するためにアラゴナイト飽和度(ΩAr)を求めた。

【結果・考察】
 年間のpH、ΩCa値およびΩAr値はサロマ湖では8.06±0.09、3.43±0.67および2.19±0.45、噴火湾八雲沖では8.08±0.06、3.73±0.37および2.39±0.25、陸奥湾では8.08±0.04、4.37±0.25および2.83±0.20で変化していた。そのうち、夏季にpHの低下が見られ、冬季または底層付近でΩ値が低かった。特にサロマ湖では8月の深度15 m層でpHは7.65、ΩCa値は1.61、ΩAr値は1.03と最も低かった。この深度の溶存酸素濃度は同月の他の深度より減少しており、溶存無機炭素濃度および栄養塩濃度は上昇していた。これは底層付近での生物活動による有機物の分解が起こっていたと考えられる。以上のことより、季節変動による一時的な酸性化が起きており、夏季のサロマ湖ではΩ値が未飽和状態に陥っている期間が存在する可能性がある。3つの水域を比べるとサロマ湖がホタテガイの成長が抑制される可能性が最も高いことがわかった。