JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS28] 海洋物理学一般

コンビーナ:川合 義美(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門 海洋観測研究センター)、北出 裕二郎(東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科)

[AOS28-01] 氷期気候における大西洋子午面循環の多重解構造およびモード遷移について

*安藤 大悟1岡 顕1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:氷期気候、大西洋子午面循環、気候モデル

大西洋子午面循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation; AMOC)は氷期の気候形成に大きな影響を与えていたことが知られている。氷期の急激な気候変動イベントとして知られるDansgaard-Oeschger(DO)振動は、AMOCが複数のモードの間を遷移していたことと深く関係していたと考えられているが、そのメカニズムの詳細についてはいまだ明らかになっていない。氷期におけるAMOCにはどのようなモードが存在していたかを知ることは、氷期気候の理解に不可欠である。そこで、氷期気候におけるAMOCのモードとその遷移が比較的研究の進んでいる現在気候からどのように変化していたかを明らかにすることを目的として数値実験を行った。
本研究では、まず簡易気候モデルMIROC-lite (Oka et al., 2011, 2017)において、大気海洋結合モデルMIROC4m (Hasumi and Emori, 2004)の結果を利用することで現在および氷期のAMOCを再現した。その後、AMOCへの強制力として北大西洋高緯度域への淡水フラックスを少しずつ変化させながら与えるようなヒステリシス実験を行い、AMOCの多重解構造を求めた。
現在気候のAMOCでは、淡水フラックスを与えることによって、現在の”on”モードから循環がほぼ停止する”off”モードへの遷移が見られた。2つのモードはある範囲の淡水フラックスにおいてどちらも安定となる多重解構造をなしていた。一方で氷期気候のAMOCでは、多重解の範囲が現在から大きく縮小していたほか、モード遷移後も浅く弱い循環が残っており、このモードは”off”モードのかわりに”weak”モードと名付けた。この”weak”モードは氷期気候下では大気の寒冷化に伴って北大西洋の深層水形成域が南下することで生じていた。さらに、現在気候でのAMOCのモード遷移に関する先行研究で重視されてきた海盆スケールの塩分輸送フィードバックが氷期気候下ではモード遷移にあまり寄与しておらず、かわりに海氷との相互作用による深層水形成域の変化が重要であることが示唆された。