[AOS28-02] 海洋混合層中の乱流が沈降粒子の粒径分布に及ぼす影響に関する数値実験
★招待講演
キーワード:混合層、乱流、沈降粒子、粒径分布
海洋中の沈降粒子は様々な物質を輸送する。例えば植物プランクトンは、光合成を通じて炭素を吸収し、混合層を抜けて粒子として沈降していく。この過程を通して大気中の二酸化炭素が海洋深層に輸送されるほか、様々な物質が粒子表面に吸着されて移流されていくことが知られている。それらの物質の輸送量をより正確に見積もることは、全球に亘る炭素循環を定量的に評価したり、沿岸域からの物質拡散を見積もる上で重要である。しかし粒子の沈降速度には未だ不明な点が多く、観測値を再現するようその値が決められるなどしており、現状での沈降に伴う物質輸送の見積もりは十分とはいいがたい。
粒子の沈降に伴う物質輸送の見積もりには、粒子の沈降速度およびその体積や表面積が重要となるが、いずれも粒子の粒径に依存する。したがって、どのような粒径を持つ粒子がどの程度混合層に存在し、どのような速度で混合層から沈降するかが重要となる。粒子は、ブラウン運動や沈降速度差、流動場のシア効果によって凝集する結果、粒径が増大することが知られている(Burd and Jackson, 2009; Ayala et al., 2008)。一方で強い乱流下では大きな粒子は分裂し、その粒径はコルモゴロフスケール程度に制限されることも知られている(Takeuchi et al., 2019)。このようにシア流である乱流は、粒径分布に対して相反する二つの効果を有するが、その正味の効果については明らかでない。
以上のことを踏まえ、本研究では乱流が混合層内の粒径分布に与える影響を、乱流を精度よく再現する数値モデル(LES)と粒子モデルとを用いて調べた。粒子モデルはRiechelmann et al. (2012)で用いられたLagrangian cloud model (LCM)を改良したモデルを用いた。このモデルでは一つ一つの粒子ではなく粒子の集合体(パケットと呼ぶ)を追跡する。これにより大量の粒子の相互作用を低い計算コストで評価する。各パケットはLESによって計算された背景流速場と自重による沈降とで移動しつつ、周囲のパケットとの相互作用(粒子の凝集)や乱流による分裂により、そのパケットに含まれる粒子数と粒径を変化させる。凝集のメカニズムとして想定したのは沈降速度差、ブラウン運動及び流速シアの3つである。LESで解像するスケールのシア効果はパケットの運動で表現し、サブグリッドスケールのシア効果を含むそれ以外の凝集効果はパケット間の相互作用として定式化した(Andrejczuk et al., 2010)。乱流による粒子の分裂は、粒径がKolmogorovの長さスケールを超えたパケットについて、粒径をへ強制する一方で粒子数を総質量が保たれるように増加させることで表現した。
本研究では風によって生じた海洋表層での乱流を想定し、f面上の密度一様なモデル海洋の海面に一定の風応力を課すことで乱流を発生させた。モデル海洋は矩形とし、水平境界は周期的、下端境界はfree-slipとした。乱流が定常となったのち、粒径10-12µmのパケットを海面から注入し続けた。パケットは相互作用により粒径を増大させながら自重により沈降する。モデル海洋の下端境界に達したパケットは取り除き、粒径分布が定常となるまで実験を行った。比較のために風応力を課さずにパケットを注入する実験も行い、静水中での粒子の粒径分布と比較することで、乱流が粒径分布に与える影響を評価した。
その結果、乱流を発生させた実験では、大きな粒径を持つ粒子が増加した。この要因としては、乱流場のシアによって粒子の凝集が促進されたことに加えて、乱流拡散によって混合層中に長く滞在するパケットが増え、その結果より長時間相互作用を受け粒径が増大したことが、乱流による粒子の分裂の効果を上回ったためと考えられる。下端境界を単位時間に通過した粒子の平均沈降速度は、粒径の変化に対応して乱流実験が非乱流実験の約1.3倍、粒子の総表面積は約0.8倍となった。この結果から、乱流は粒子の体積としての物質輸送は増加させるが、表面積を介した物質輸送は減少させる可能性があることが示唆される。その他詳細な結果やパラメータ依存性については講演時に述べる。
粒子の沈降に伴う物質輸送の見積もりには、粒子の沈降速度およびその体積や表面積が重要となるが、いずれも粒子の粒径に依存する。したがって、どのような粒径を持つ粒子がどの程度混合層に存在し、どのような速度で混合層から沈降するかが重要となる。粒子は、ブラウン運動や沈降速度差、流動場のシア効果によって凝集する結果、粒径が増大することが知られている(Burd and Jackson, 2009; Ayala et al., 2008)。一方で強い乱流下では大きな粒子は分裂し、その粒径はコルモゴロフスケール程度に制限されることも知られている(Takeuchi et al., 2019)。このようにシア流である乱流は、粒径分布に対して相反する二つの効果を有するが、その正味の効果については明らかでない。
以上のことを踏まえ、本研究では乱流が混合層内の粒径分布に与える影響を、乱流を精度よく再現する数値モデル(LES)と粒子モデルとを用いて調べた。粒子モデルはRiechelmann et al. (2012)で用いられたLagrangian cloud model (LCM)を改良したモデルを用いた。このモデルでは一つ一つの粒子ではなく粒子の集合体(パケットと呼ぶ)を追跡する。これにより大量の粒子の相互作用を低い計算コストで評価する。各パケットはLESによって計算された背景流速場と自重による沈降とで移動しつつ、周囲のパケットとの相互作用(粒子の凝集)や乱流による分裂により、そのパケットに含まれる粒子数と粒径を変化させる。凝集のメカニズムとして想定したのは沈降速度差、ブラウン運動及び流速シアの3つである。LESで解像するスケールのシア効果はパケットの運動で表現し、サブグリッドスケールのシア効果を含むそれ以外の凝集効果はパケット間の相互作用として定式化した(Andrejczuk et al., 2010)。乱流による粒子の分裂は、粒径がKolmogorovの長さスケールを超えたパケットについて、粒径をへ強制する一方で粒子数を総質量が保たれるように増加させることで表現した。
本研究では風によって生じた海洋表層での乱流を想定し、f面上の密度一様なモデル海洋の海面に一定の風応力を課すことで乱流を発生させた。モデル海洋は矩形とし、水平境界は周期的、下端境界はfree-slipとした。乱流が定常となったのち、粒径10-12µmのパケットを海面から注入し続けた。パケットは相互作用により粒径を増大させながら自重により沈降する。モデル海洋の下端境界に達したパケットは取り除き、粒径分布が定常となるまで実験を行った。比較のために風応力を課さずにパケットを注入する実験も行い、静水中での粒子の粒径分布と比較することで、乱流が粒径分布に与える影響を評価した。
その結果、乱流を発生させた実験では、大きな粒径を持つ粒子が増加した。この要因としては、乱流場のシアによって粒子の凝集が促進されたことに加えて、乱流拡散によって混合層中に長く滞在するパケットが増え、その結果より長時間相互作用を受け粒径が増大したことが、乱流による粒子の分裂の効果を上回ったためと考えられる。下端境界を単位時間に通過した粒子の平均沈降速度は、粒径の変化に対応して乱流実験が非乱流実験の約1.3倍、粒子の総表面積は約0.8倍となった。この結果から、乱流は粒子の体積としての物質輸送は増加させるが、表面積を介した物質輸送は減少させる可能性があることが示唆される。その他詳細な結果やパラメータ依存性については講演時に述べる。