[BBG02-02] 深海底熱水噴出孔金属硫化物チムニーに生息するNitrospirae門磁性細菌のゲノムおよびマグネトソームの形態的特徴
キーワード:深海底熱水噴出域、海洋堆積物、磁性細菌、金属硫化物チムニー、鉄の生物地球科学
深海環境において、生物由来の磁性粒子は普遍的に検出されているが、磁性粒子の合成に関わる微生物については不明である。本研究では、南部マラナトラフ(SMT)の深海底熱水噴出域に形成した金属硫化物チムニー内部に生息する磁性細菌を調査した。電子顕微鏡観察によって、チムニー試料からteardrop型磁性粒子を持つ細胞が観察された。微生物群集のメタゲノム解析によって、膜で囲まれた磁性粒子であるマグネトソームの合成に関わる遺伝子を含むコンティグの多くは、teardrop型磁性粒子を作ることが知られるNitrospirae門に属することが明らかになった。金属硫化物チムニー試料から得られたほぼ完全に復元されたゲノムは、マグネトソームの形成に必要な機能とされる、(i) 細胞質膜の陥入、(ii) たんぱく質の並び替え、(iii) 鉄の輸送、(iv) バイオミネラリゼーションを司るマグネトソーム遺伝子を備えていた。しかし、マグネトソームの配列を司る遺伝子が確認されず、電子顕微鏡で観察された細胞内のteardrop型磁性粒子は、これまで知られるものと異なり、一直線に配列してなかった。代謝機能解析によってこのNitrospirae門細菌は水素を利用した代謝を持っていることが明らかになったため、金属硫化物中の鉄と水の反応で形成する水素の重要性が示唆された。今回得られたゲノムと近縁なゲノムが鉄の酸化還元勾配を持つ深海性堆積物からも得られており、Nitrospirae門細菌は深海底環境で生物由来の磁性粒子を形成していると考えられる。