[BBG02-03] スフェルライトにおけるCaCO3核形成過程
キーワード:スフェルライト、ACC、CaCO3、核形成、温泉、地球微生物学
炭酸塩スフェルライトは直径数10 μm~1 mm程度の球状粒子である.スフェルライトはしばしばCaCO3が沈殿する温泉などで形成され,大規模石油貯留岩からも報告されているために注目を集めている.スフェルライトの形成には微生物が関与することが指摘されているが,その詳細な形成メカニズムは不明である.そこで本研究は,大分県長湯温泉に形成されている炭酸塩スフェルライトを例とし,その形成過程解明を目指した.まず温泉水の流路に発達するシアノバクテリアマットを樹脂包埋し,薄片を作成した.この薄片から集束イオンビーム加工(FIB)によって厚さ約100 nmの薄膜試料を作成し,走査型透過X線顕微鏡(STXM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した.その結果,スフェルライトの大部分はアラゴナイトから構成されていたが,中心部付近には非晶質炭酸カルシウム(ACC)とカルサイトも確認された.特にACCは,微生物細胞をかたどるような産状を示した.これらのことから,以下のようなスフェルライト形成過程が推定された:1) 負に帯電した微生物細胞またはその代謝生成物表面でACCが形成,2) ACCを前駆体としてカルサイトが形成,3) 温泉水の高いMg/Ca比によりアラゴナイトが形成.一方,スフェルライトを取り囲むシアノバクテリアは石灰化しておらず,このことは非常に高いCaCO3飽和度条件であっても,結晶核形成場は底質の物理化学的特性に強く制御されることを示している.