[BBG02-P02] 32億年前に形成した南アフリカ・バーバトン緑色片岩帯ムーディーズ縞状鉄鉱層における鉄同位体分別
キーワード:地球史、同位体、堆積岩、微生物、鉄、酸素
縞状鉄鉱層(BIF)はその形成が初期地球における海洋の酸化還元環境や生物活動といった初期地球表層環境と密接な関連があるため、地球史を解明するうえで重要な研究対象となっている。そしてBIF中の主要元素である鉄の同位体比は酸化還元反応や生物が関与することで敏感に変動しBIF形成プロセスを強く反映している可能性があることから、これまで様々なBIFでその測定がなされてきた。しかしながら、一般的にBIF中の鉄同位体比には値に幅が見られ、その解釈にあたって、鉄の部分酸化によるレイリー分別モデルや続成作用中の2次鉱物形成過程での鉄還元菌の異化代謝の関与が大きな影響を及ぼした主な要因として挙げられ、議論となっている。そこで本研究では、約32億年前に大陸からの砕屑物を含むほどの浅海域で形成した南アフリカ・バーバトン緑色片岩帯ムーディーズ縞状鉄鉱層に着目し、鉄同位体比の測定を行った。本BIFでは砕屑物のフラックスがあることにより、鉄の化学沈殿量を鉄含有量から、堆積環境を砕屑物の粒径から試料ごとに比較できるため、BIF中の鉄同位体比に影響を与えた要因を評価できる可能性がある。本研究より、ムーディーズ縞状鉄鉱層の中でも化学沈殿した鉄を特に多く含んだ、磁鉄鉱を含む磁鉄鉱層と炭酸塩鉱物を含む炭酸塩層においてバルクの鉄同位体比(δ56Fe = -0.54 ~ +0.56‰)が鉄含有量の大きい試料ほど高く、また堆積深度の深い試料ほど高くなる傾向が確認された。また両層どちらも同じ傾向の上に載ることが確認された。これらの結果は、熱水由来の鉄が初期沈殿物生成時の同位体分別によるレイリー分別モデルに従って堆積環境を移動させながら沈殿したこと、また磁鉄鉱と炭酸塩鉱物が続成作用や変成作用の過程で、共通の初期沈殿物から鉄の流入流出のない閉じた系で形成されたことを示している。本研究ではさらに、近年の研究からBIFを形成した初期沈殿物の可能性が示唆されている、非酸化的環境で生成する2価鉄とシリカの沈殿物(e.g., グリーナライト)の合成実験を行った。この実験で、未だ先行研究のない2価鉄とシリカの沈殿物生成時の同位体効果を明らかにすることで、初期沈殿物生成時の同位体分別を強く反映している本BIF中の鉄同位体比からBIFを形成した初期沈殿物としての可能性を検討できる。本実験結果より溶存鉄から2価鉄とシリカの沈殿物生成時の鉄の同位体分別は初期沈殿物としての可能性を十分に否定できるほど小さく、候補として挙げられている初期沈殿物の中で、生成時に大きな同位体分別が生じることが知られている3価の鉄水酸化物の酸化沈殿によるレイリー分別モデルでしか本BIF中のバルクの鉄同位体比の値の幅は説明できないことが明らかとなった。以上本研究からムーディーズ縞状鉄鉱層中のバルクの鉄同位体比は、鉄還元菌が関与した可能性のある2次鉱物(磁鉄鉱・炭酸塩鉱物)の形成プロセスではなく、熱水由来の溶存鉄が酸化され生成した3価の鉄水酸化物のレイリー分別モデルに従った沈殿堆積プロセスの記録を保存していることが導かれた。