JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)

[BCG06-P03] 氷期-間氷期サイクルにおける固体地球のフィードバック応答:海洋 Os 同位体マスバランスに基づく制約

★招待講演

*桑原 佑典1安川 和孝2,1,3藤永 公一郎3,2野崎 達生4,2,5,3大田 隼一郎2,3,6佐藤 峰南3,4木村 純一6中村 謙太郎1加藤 泰浩2,1,3,4 (1.東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻、2.東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター、3.千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター、4.国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源研究開発センター、5.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、6.国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター)

キーワード:氷期―間氷期サイクル、海水 Os 同位体比、炭素循環

地球史において固体地球は気候変動に応答し,(1)火成活動によるCO2の供給と,(2)珪酸塩鉱物の化学風化による大気中のCO2の消費を通じて,地質学的なタイムスケール(>106 yr)における地球表層システムの炭素収支を規定している.しかしながら,第四紀の氷期-間氷期サイクルに代表される短期的な (<105 yr) 気候変動に対する固体地球応答の実態は,依然として曖昧なままである.本研究では氷期-間氷期サイクルにおける固体地球の応答を制約するため,海水Os同位体比(187Os/188Os)をプロキシとして利用した.海水Os同位体比は,放射壊変起源のOsに富む河川水フラックス(187Os/188Os =1.0-1.4)と,非放射壊変起源のOsに富むマントルや宇宙塵に由来するフラックス(187Os/188Os =〜0.12)の相対的な強度を反映する.両フラックスの同位体比が1桁異なり,また,海洋におけるOsの滞留時間が短い (104 yrオーダー) ため,海水Os同位体比は氷期-間氷期サイクルの時間スケールにおける海洋への陸源物質とマントル由来物質のインプットを鋭敏に反映すると期待される.
発表者らは,南西太平洋ラウ海盆で採取された海底堆積物を用いて過去30万年間の海水Os同位体比記録を復元した.その結果,海水Os同位体比が氷期-間氷期サイクルと同期して変動することが明らかになった.そして,海洋Os同位体マスバランス計算に基づく考察の結果,本研究により見出された海水Os同位体比の変動は、氷期-間氷期サイクルの気候変動に同期した化学風化フラックスの変化だけでは説明できないことが判明した.これに代わり,(1)退氷期における氷河堆積物の急激な化学風化による大量の放射壊変起源のOsのインプットと,(2)氷期に海底熱水活動が強化されることに由来する大量の非放射壊変起源のOsのインプットの2通りの短期的なプロセスを組み合わせることで説明できることがわかった.本研究成果は,退氷期における氷河堆積物の急激な化学風化,および氷期における海底火成活動の強化といった固体地球応答が、氷期-間氷期サイクルという数万年オーダーの気候サイクルに系統的かつ繰り返し起こったことを初めて明らかにするものである.