JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)

[BCG06-P05] 西グリーンランド南部イスア表成岩帯に産する黒色頁岩の地質学的産状、鉱物組成と化学組成:初期地球の表層環境解読試料としての有用性について

*鈴木 瑛子1澤木 佑介2小宮 剛2 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 )

キーワード:黒色頁岩、初期地球、後期隕石重爆撃

地球は地球史を通じて、H2Oを主体とした海洋に覆われた太陽系で唯一の惑星である。そのような地球の初期進化を読み解くことは地球の海洋の起源や進化を紐解く上でとても重要である。一般に、地球の初期進化を解読するには二つの方法がとられる。一つ目は数値計算であり、二つ目は過去の地質試料の解析である。数値計算では地球で起きたかもしれない一般的な解は得られるが、地球のみで起きた特異的なイベントは得られないかもしれない。そこで、本研究では後者の手法を取り入れる。特に、初期地球の表層環境を推定するには、初期地球に形成した堆積岩を調べることが必須であるため、そうした推定に適した黒色頁岩などの堆積岩を初期地球の地質体から見出すことは重要であろう。

初期地球で起きたとされるイベントの一つに後期隕石重爆撃(LHB:Late Heavy Bombardment)が挙げられる。これは、大量の隕石が地球に衝突したとされるイベントである、月のクレーター形成時期から42~38億年前に起きたとされる。しかし、現在地球ではその証拠が得られておらず、そのイベントが本当にあったのかどうかは今なお議論の的になっている。一般に、大量の隕石衝突が衝突すると、当時の海洋底の堆積岩に白金族元素異常を残すことが知られているが、初期太古代の地質体からはそのような証拠は得られていない。これまでに、本地域の縞状鉄鉱層中のIr濃度などが分析されているが顕著な異常は見つかっていない。これまで縞状鉄鉱層は顕生代のチャートなどの深海遠洋性堆積物に対比され、堆積速度の遅い堆積岩とみなされてきたが、縞状鉄鉱層が間欠的な熱水活動に由来することを考えると、必ずしもその考えは自明ではないのかもしれない。黒色頁岩のような、堆積速度の遅い堆積岩の研究が重要であろう。

西グリーンランド南部のイスア地域には比較的低変成度(角閃岩相以下)の変成作用を受けた初期太古代の表成岩が存在している。私たちは2016年にイスア表成岩帯の地質調査を行い、従来苦鉄質堆積岩とされていた場所で新たに黒色頁岩を発見した。イスア表成岩帯の西部では有機物に富む黒色頁岩がこれまでにも報告されていたが(Rosing, 1999)、本研究対象地域である北東部では、これまでに黒色頁岩は報告されていなかった。また、従来報告されていた黒色頁岩に関しても、その詳細な地質学的産状(伴う岩相や詳細な岩相層序)は明らかにされていなかった。本発表ではこの黒色頁岩の地質学的産状、鉱物学的記載と主成分と微量成分化学組成を報告し、その重要性について考察する。

イスア表成岩帯は西グリーンランド南部の主要都市であるヌークの北東約150kmの場所に存在し、弓状の形状をしている。本地質体は超苦鉄質岩、枕状構造を持つ玄武岩、縞状鉄鉱層、チャート、炭酸塩岩および礫岩、砂岩や泥質岩などの砕屑性堆積岩から構成され、37~38億年前の年代を持つ花崗岩質片麻岩(イトサック片麻岩)によって貫入されている。それらは、上述のように、緑色片岩から角閃岩相程度の変成作用を受けているが、ここでは簡単のため推定された原岩名を用いる。イスア表成岩帯北東部では、一部褶曲などが見られるが、玄武岩層、縞状鉄鉱層、チャートおよび砕屑性堆積岩は、全体として北東—南西方向の走向をもち、東側に適度に傾斜している。そして、イスア表成岩帯北東部は断層に境界づけられた10のサブユニットからなり、それぞれのサブユニットは互いに似た岩層層序を持つ。すなわち、覆瓦状構造をなす。また、その岩層層序は下位から玄武岩、チャート、砕屑性堆積岩の順で累重し、顕生代で見られる海洋プレート層序に類似する。そのような覆瓦状構造と海洋プレート層序の存在は、イスア表成岩帯が付加体であったことを示唆する。

イスア北東部では、黒色頁岩は主に二つの地域に存在し、特に北部の地域では、従来マフィック堆積岩(Komiya et al., 1999)またはチャート(Nutman & Friend, 2009)として記載されてきた。その黒色頁岩は縞状鉄鉱層と接し、特に、縞状鉄鉱層の層序的下位に存在する。これまで、イスア表成岩帯の縞状鉄鉱層は玄武岩質溶岩の上に直接累重するアルゴマタイプであるとされてきた、本発見は、イスア表成岩帯の縞状鉄鉱層の起源については新しい知見をもたらすことが期待される。また、一般に、黒色頁岩の堆積速度は遅いとされているので、隕石の衝突など特異的なイベントの検出に適しており、現在極めて論議を呼んでいる後期隕石重爆撃由来する隕石衝突の証拠の発見に期待される。
本研究では、地質学的産状に加えて、顕微鏡観察と化学組成分析を行った。北部の試料は石英、カルサイト、緑泥石を含み、南部の試料は石英、角閃石、黒雲母で構成される。また、化学組成分析の結果も含めて議論する。