[G02-01] 水害避難時のジレンマを疑似体験する教材開発と台風19号による検証
キーワード:防災教育、水害避難、台風19号
ゲリラ豪雨や巨大台風による風水害、海面上昇に伴う高潮など、人命に関わる大規模災害が頻発している。風水害は地震災害と異なり、ある程度の予測が可能である一方で、逐次出される情報を待ち続ける形で結果的に逃げ遅れる事例が見られている。
こうした状況に対応できる防災教育教材への需要が高まり、水害からの避難におけるジレンマをテーマとした教材を3年前に作成し、各地で実践している。現在、教材は小学生版が2パターン、中学生・大学生版がそれぞれ1パターンずつあるが、基本的なコンセプトは同じであり、避難のタイミングを決める難しさを疑似体験するというものである。小中学生版の教材は、長野県・愛媛県・高知県・埼玉県の小学校、埼玉県の中学校で実践されている。ここでは小学生版の教材を説明する。
教材はストーリー仕立てで紙芝居のように展開していく。主人公4人の小学生が公園で遊んでいたところ雨が降り始め、1人の家に移動するところから始まる。4人が家でゲームをしていると、テレビから○○川上流(実施校の近隣河川名を入れる)で警戒レベル4、4人のいる地区で警戒レベル3が発表されたことを知る。しかし窓の外に大きな変化はなく、避難している人もいない。まずここまで物語を進めたタイミングで、児童に「自分だったらこの時点で避難するか?」と問いかける。避難する児童には授業をしている教室や体育館の後部に設置した『避難所』に移動してもらい、避難しない生徒にはその場にとどまってもらう。その後も主人公たちの状況は刻一刻と変化していき、当該地区の警戒レベルが4に引き上げられて、大雨のなか避難する近所の人も窓から見え始める。ここでも児童に避難するかを問い、避難したいと思う子だけが『避難所』に移動する。やがて雨はますます強くなり、室内は停電する。
物語の結末はどうなったかについて、児童に3パターン提示する。何事もなく翌朝を迎えるパターン、床上浸水するパターン、そして2階まで浸水し救助を待っているパターン。このすべてを見せたあとに、「この3つのどの結末を迎えるかは誰にも分からない。もう一度時間を戻せるなら、自分はどのタイミングで避難したいか?」と問いかけ、もう一度紙芝居の最初に戻り、めいめいの思うところで『避難所』に行ってもらう。
授業では避難するかしないかの決断がなされるたびに「なぜ避難したか」「なぜ避難しないことにしたか」を聞く。避難した理由には、「早いほうがいいと思った」といった意見も出てくるが、観察している限りでは、誰かの避難につられて『避難所』に移動しているように見受けられ、したがって明確な理由を言葉にできる子は少ない。一方で避難しなかった子どもたちは「避難経路が水浸しになっているかもしれない」「親が帰ってくるかもしれない」「かえって危険だと思う」といった理由が雄弁に語られるようすが見受けられる。
この教材を実施した学区のいくつかが、2019年の台風19号で被災し、はからずも教材の効果がはかられる状況となった。特に、長野県内の小学校では授業参観日に実施したため保護者もこの教材を体験しており、また、防災教育モデル校としての位置づけが終わった今も筆者らとのコミュニケーションが継続している。当該地区では、床上浸水には至らなかったものの、最終的には避難指示が出ており、保護者も当時の児童らもまさにこの教材の主人公と同様のジレンマを体験していた。本発表では、当該地域の保護者らへのヒアリングも踏まえ、教材の何が生かされ、何が実際の避難に不足していたのかを報告する。
こうした状況に対応できる防災教育教材への需要が高まり、水害からの避難におけるジレンマをテーマとした教材を3年前に作成し、各地で実践している。現在、教材は小学生版が2パターン、中学生・大学生版がそれぞれ1パターンずつあるが、基本的なコンセプトは同じであり、避難のタイミングを決める難しさを疑似体験するというものである。小中学生版の教材は、長野県・愛媛県・高知県・埼玉県の小学校、埼玉県の中学校で実践されている。ここでは小学生版の教材を説明する。
教材はストーリー仕立てで紙芝居のように展開していく。主人公4人の小学生が公園で遊んでいたところ雨が降り始め、1人の家に移動するところから始まる。4人が家でゲームをしていると、テレビから○○川上流(実施校の近隣河川名を入れる)で警戒レベル4、4人のいる地区で警戒レベル3が発表されたことを知る。しかし窓の外に大きな変化はなく、避難している人もいない。まずここまで物語を進めたタイミングで、児童に「自分だったらこの時点で避難するか?」と問いかける。避難する児童には授業をしている教室や体育館の後部に設置した『避難所』に移動してもらい、避難しない生徒にはその場にとどまってもらう。その後も主人公たちの状況は刻一刻と変化していき、当該地区の警戒レベルが4に引き上げられて、大雨のなか避難する近所の人も窓から見え始める。ここでも児童に避難するかを問い、避難したいと思う子だけが『避難所』に移動する。やがて雨はますます強くなり、室内は停電する。
物語の結末はどうなったかについて、児童に3パターン提示する。何事もなく翌朝を迎えるパターン、床上浸水するパターン、そして2階まで浸水し救助を待っているパターン。このすべてを見せたあとに、「この3つのどの結末を迎えるかは誰にも分からない。もう一度時間を戻せるなら、自分はどのタイミングで避難したいか?」と問いかけ、もう一度紙芝居の最初に戻り、めいめいの思うところで『避難所』に行ってもらう。
授業では避難するかしないかの決断がなされるたびに「なぜ避難したか」「なぜ避難しないことにしたか」を聞く。避難した理由には、「早いほうがいいと思った」といった意見も出てくるが、観察している限りでは、誰かの避難につられて『避難所』に移動しているように見受けられ、したがって明確な理由を言葉にできる子は少ない。一方で避難しなかった子どもたちは「避難経路が水浸しになっているかもしれない」「親が帰ってくるかもしれない」「かえって危険だと思う」といった理由が雄弁に語られるようすが見受けられる。
この教材を実施した学区のいくつかが、2019年の台風19号で被災し、はからずも教材の効果がはかられる状況となった。特に、長野県内の小学校では授業参観日に実施したため保護者もこの教材を体験しており、また、防災教育モデル校としての位置づけが終わった今も筆者らとのコミュニケーションが継続している。当該地区では、床上浸水には至らなかったものの、最終的には避難指示が出ており、保護者も当時の児童らもまさにこの教材の主人公と同様のジレンマを体験していた。本発表では、当該地域の保護者らへのヒアリングも踏まえ、教材の何が生かされ、何が実際の避難に不足していたのかを報告する。