JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)

[G02-P05] 現場と実践する共同的防災教育に関する考察

*日向 惠里名1パリーク 亜美1田中 ひかり1鳥羽 美礼1船田 千紗1大木 聖子1 (1.慶應義塾大学)

キーワード:防災教育、学校現場、共同実践

1.研究の背景
 2011年の東日本大震災は,学校管理下で発生した未曾有の大災害であった.この震災を契機に防災教育の社会的需要が高まり,2013年には,文部科学省が『「生きる力」を育む防災教育の展開』を刊行した(文部科学省,2013).ここには,防災教育に関して,「防災に関する基礎的・基本的事項を系統的に理解し,思考力,判断力を高め,働かせることによって防災について適切な意思決定ができるようにすることをねらいとする」と明記されている(文部科学省,2013).一方で,文部科学省(2014)によると,防災教育が学習指導要領において系統的に整理されておらず,学校現場で効果的に実施できていない状況がある.また,永松・大木(2015)は,防災教育を行うにあたって障壁となるものについて教員を対象にアンケート調査を実施し,「防災教育の必要性を感じない」と回答した教員の割合が非常に低いことを明らかにした.この調査から,多くの教員が防災教育の必要性を認識している一方で,教員が主体となって防災教育を実施することが困難であるという現状が伺える.筆者が所属する大木研究会は,このような状況を踏まえて,学校現場と共同で防災教育の在り方を検討してきた.

2.研究のフィールド
 本研究のフィールドは,埼玉県川越市内の学校である.筆者らと川越市教育委員会は,2017年度より実践的な防災教育研究を共同で行ってきた. 2017年及び2018年度は,物語形式の防災シナリオを用いた教員研修の効果を検証した(パリーク,2018;パリーク,2019).なお,ここではこれらの研究の詳細は割愛し,2019年度の研究のみ扱う.2019年度は,市内の4校をモデル校に,モデル校の中で児童・生徒や教員に生じる変化を考察することとした.

3.アプローチの方法
 授業や研修などを通じて,児童・生徒と教員双方にアプローチをする.授業や研修の実施,介入前後でのアンケート調査,授業実施後のヒアリング調査,および日常における子供たちや教職員の言動の変化などのデータを用いて,彼らにどのような影響が生じたのかを考察し,分析を行うものとする.今年度は,保護者への働きかけをより強化していきたいとの声がモデル校や教育委員会から寄せられたこともあり,児童・生徒と教員に加えて,モデル校の全校生徒の保護者にもアンケートを実施する運びとなった.

4.モデル校の取り組み
 筆者らが直接行う防災授業はモデル校でのみの実践とした.ただし,教員が主体となって防災教育を継続的に実施できるよう,全ての学年に授業を行うことはせず,筆者らの授業を見学した他学年の教員が自分が担任する学年で授業を実施した.教員が行う授業では,クラスの子供達の実態に合わせてアレンジされていた.子供達の性格やクラスの雰囲気を踏まえて授業を行うことができるのは,筆者らにはない教員独自の強みである.さらに,理科の授業に防災の要素を組み込むなど,次年度からの新指導要領を見据えた取り組みも導入された.教員を対象とした研修においても,教員から現状の訓練のあり方を再検討する必要があるとの指摘があり,教員の意識が変化していることが伺える.

5.モデル校からの報告
 モデル校の校長は埼玉県での全体発表会において,発達段階に応じた指導を通して児童・生徒の安全に関する意識と実践力が向上したと述べた.訓練の際の初期行動が大きく変化するだけでなく,地震や過去の災害に関する会話が増えるなど,日常生活の中でも防災意識の向上を感じる場面があったという.さらに,教員についても,安全教育の指導のあり方について検証を行うことができたとの報告が寄せられている.前年度の内容を踏襲するだけの避難訓練に疑問を持ち始めた教員も多く,子供達の命を守ることができる訓練を改めて検討するようになった.

6.今後の展望
 年度末にモデル校の児童・生徒,保護者,教員に再度アンケートやヒアリング調査を行い,各ステークホルダーに生じた変化の詳細を改めて確認する.また,2019年度より,川越市との3年目になる共同研究を背景にモデル校以外の学校にも調査を行うことが可能となった.モデル校の取り組みがモデル校以外の学校にどのような影響を与えるのかについて調査し,防災教育の波及効果についても検証を行う.

参考文献
・文部科学省(2013),『「生きる力」を育む防災教育の展開』.
・永松冬青・大木聖子(2015), 『地域リスクを取り込んだ実効的防災教育』, Japan Geoscience Union Meeting 2015 May 24th-28th MAKUHARI MESSE.
・文部科学省(2014),『学校における安全教育の充実について』(審議のまとめ).
・パリーク亜美(2018),『ナラティヴを活用したより良い防災研修のあり方』,慶應義塾大学SFC卒業論文.
・パリーク亜美(2019),『防災教員研修へのナラティヴ・アプローチの導入−埼玉県公立学校での実践を通して−』,Japan Geoscience Union Meeting 2019 May 26th-30h MAKUHARI MESSE.