JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)

[G03-P02] 教室で行う薄片観察レシピ2.0 その2 製作編

*岡本 義雄1 (1.Kamnoetvidya Science Academy, PCSHS Mukdahan, Thailand)

キーワード:薄片製作、岩石切断機、岩石研磨機、地学クラブ

教室で生徒に不自由なく薄片観察を提供するためには,多量の岩石薄片が必要となる.しかし市販の教材用薄片は1枚2千円程度と極めて高価で,とても教室で必要な量を用意できない.そこで岩石薄片の簡単な自作法を試行した.もっとも重要な点は岩石をいかに切断するか,さらにいかに迅速に研磨するかにかかる.従来の岩石切断機及び研磨機は大変高価でとても教室では一般的ではない.さらに切断ブレードや研磨剤などの消耗品も必要とする.ここでは安価な大量生産品をベースに,簡単な追加工作で自作することを考える.選んだターゲットは卓上両頭グラインダーと台所用の包丁砥ぎ機である.いずれもDIYショップなどで1万円内外で入手できる.
 ここで用いた両頭グラインダーは砥石径150mmのもので,片方の砥石とカバーを取り去り,モーターの基部にアクリル厚板(5mm厚)で自作した水槽をネジで固定する.さらにモーター軸に安価なダイヤモンドブレード(直径160mm〜180mm)を,自作したアーバー(固定金具)により取り付ける.このアーバー製作にのみ小型旋盤を使用した.あとの作業は通常の電動工具で充分可能である.アクリル板の切断はアクリル専用カッター,接着にはアクリル専用接着剤を使用した.アクリル水槽にはアルミ板(3mm厚)のフタを取り付けこの中央に,ダイヤモンドブレードの出るスリットを開ける.さらに水槽の水を抜くためのドレンコックを水槽下部に自作する.
 岩石の切断作業は水槽に水をカッターの刃が浸かるように入れて行う.念のため,電源のアースを取って使用する.ダイヤモンド刃は1mm厚前後のもので充分である.通常のにぎりこぶし大の岩石であれば気持ちよく切断できる.トルクも充分である.さらにスライドガラスに片面を磨いて接着した岩石を切るときは,切断機の上面にクランプでガイドを固定して,刃とガイドの隙間を薄片の厚さが切れるように調整する.慣れると薄片の厚みを0.5mm厚程度にまで切断可能となる.なお,スライドガラスと岩石の接着には90分硬化型のボンドEを使用している.接着の際,岩石をホットプレートで暖めると,流動性が増して,接着しやすい.
 次に岩石研磨機に移る.従来の手研磨での荒摺り(#150〜300)と中摺り(#300〜500)は自作の研磨機で行う.研磨機は包丁砥ぎ機(砥石径180mm)を簡単に改良する.包丁砥ぎ機の砥石の上に,同径の薄い安価な中国製ダイヤモンド砥石(#150〜#600程度を目的に応じて交換する,中国通販で千円から2千円)を載せて固定するだけである.固定には包丁砥ぎ機のモーター軸を,自作の逆ネジ治具で延長してボルトで固定する.極めて簡単な作業で研磨機が完成する.あとは研磨機の電源を入れて,水を少しずつ流す.回転で薄片が飛ばされないように手でしっかり確保して,砥石に押し付け研磨するだけである.これも慣れるとカットずみのガラス貼り付け薄片から,次の手研磨が可能になる0.1mm厚程度にまで数分で薄くできる.研磨面の平行状態も慣れるととても良好である.しかし最後の行程の仕上げ摺りのみ,現在でも手研磨で行っている.#800のカーボランダムと#1500のアランダムを水でとき,ガラス板上で仕上げ研磨を行う.これらの新しい手法で,従来教室における手研磨では接着待ち時間を除いても,半日から1日かけて行っていた作業が,ほぼ1から数時間に短縮される.手研磨と比べても途中までの薄片の研磨の平行度が高く,仕上がりがきれいにできる.顕微鏡下で石英や長石の干渉色が灰色になることで,厚みをチェックする.
 最後はカバーガラスをかける工程.これもUV硬化型接着剤を用いることで,気泡が少なく失敗しない張り合わせが可能となる.将来的にはさらに簡素化するため,仕上げ段階の機械化も考えている.しかし現在のダイヤモンド砥石を用いる方法では,より細かい番数の砥石を用いても,大きめのダイヤ粒によるスリック傷が薄片にどうしても付く.この部分の克服には成功していない.この機械を使い始めて,すでに200枚程度の薄片を仕上げてきているが,これらの工程は高校生でも作業可能であり,ツールの製作もそれほど難しいものではないと考えている.地学クラブ等での活用に適すると考えている.なお製作した薄片を用いた薄片観察についてはその1で記述する.