JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)

[HCG23-08] 半閉鎖海におけるサンドウェーブの短-長期的な形態変化と移動〜大阪湾沖ノ瀬を例として〜

小島 響1、*谷 篤史1松野 哲男2,3佐野 守2島 伸和3,2遠藤 徳孝4大串 健一1張 旭5内山 雄介5 (1.神戸大学 大学院人間発達環境学研究科、2.神戸大学 海洋底探査センター、3.神戸大学 大学院理学研究科、4.金沢 大学 理工研究域地球社会基盤学系、5.神戸大学 大学院工学研究科)

キーワード:サンドウェーブ、大阪湾、形態変化

海底や河床等の固結していない砂粒子に水の流れが作用することで形成される波⻑数mから数百mの微小地形をサンドウェーブという.サンドウェーブは海底付近の流れの作用により形態変化や移動することがわかっており,サンドウェーブの短-長期的な挙動を知るには繰り返し観測することが必要である.海流が支配的である海域では,海流の流れの方向にサンドウェーブが移動することが知られている.一方,潮流が支配的な海域では,海底付近の海水の流れの大きさや方向が時々刻々と変化するため,サンドウェーブの形態変化や移動と海底付近の海水の流れの変化を結び付けることは難しいとされてきた(Xu et al., 2008).しかし,近年の海洋数値モデルの発展は著しく,内湾のようにモデルとなる計算領域への水の出入り口が限られている場合では細かい格子間隔でのシミュレーションが可能となり,海底付近の流れを長時間かつ広範囲で知ることができるようになった(Uchiyama et al., 2018).潮流が支配的な大阪湾は,主に浅い緩勾配の東部海域(水深5-20 m)と水深の深い西部海域(水深20-70 m)に分けられる.明石海峡から東南方向約12 kmには,水深が25-45 mと周辺海域と比較して浅い沖ノ瀬と呼ばれる海底砂丘が存在し(八島, 1992),海底表層には波長20-100 mのサンドウェーブが観測されている.そこで,流れが周期的に変化する場のモデルケースとして潮流が作用する沖ノ瀬に見られるサンドウェーブを対象とし,複数回にわたる地形観測と海水の流れモデルに基づくシミュレーションを組み合わせることで,半閉鎖海に形成されるサンドウェーブの短-長期的な形態変化と移動およびそのメカニズムの解明を目的とし,研究を行った.

 2017年から2019年にかけて神戸大学附属練習船「深江丸」に乗船し,沖ノ瀬北西部(北緯:34º32.40’‑33.60’,東経:135º05.00’-05.30’)を調査対象とした海底地形調査を計11回実施した.調査内容は,精密音響測深器による測深とCTD(Conductivity Temperature Depth profiler)による海水成分調査,グラブ式採泥器による海底堆積物の採取である.さらに,Uchiyama et al. (2018)が開発した大阪湾内の海水の流れモデルに基づくシミュレーション結果から,大阪湾内の海底付近の流れを計算した.

 海底地形調査結果からサンドウェーブの分布を調べたところ,サンドウェーブの頂線は西北西-東南東方向に卓越していることがわかった.上げ潮最大時と下げ潮最大時の流向が反対方向である場合,その方向とサンドウェーブの頂線は直交することが知られている(池原, 1996).一方,海水の流れモデルに基づくシミュレーションからは,沖ノ瀬北西部における上げ潮最大時の流向は北北西方向,下げ潮最大時の流向は南南東方向となった.そのため,沖ノ瀬北西部のサンドウェーブの頂線方向は上げ潮・下げ潮それぞれの最大時の流向とは直交していないことが明らかになった.海底から採取した砂試料の平均粒度(約650 µm)と沖ノ瀬北西部の水深(水深25‑45 m)からサンドウェーブの形態を変化させうる流速は0.1 m/s以上と想定される(Rubin & McCulloch, 1980).そこで,0.1 m/s以上の流れの平均ベクトルの方向を求めたところ南南西方向となり,サンドウェーブの頂線と直交することがわかった.こうした流れ場の影響で,サンドウェーブ頂線は西北西-東南東方向に卓越していることがわかった.形態変化の結果もふまえ,半閉鎖海におけるサンドウェーブの短-長期的な形態変化と移動について議論する.