JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 混濁流:発生源から堆積物・地形形成まで

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、Robert Michael Dorrell(University of Hull)、横川 美和(大阪工業大学情報科学部)

[HCG25-P06] 沖縄トラフに発達する蛇行チャネル再訪

*松本 剛1森井 康宏2山脇 信博2合澤 格2保科 草太2木下 宰2 (1.琉球大学理学部、2.長崎大学水産学部)

キーワード:沖縄トラフ、蛇行チャネル、混濁流

アジア大陸東縁部で南北方向に活動的なリフティングの起こっている沖縄トラフ西端部の与那国島北方で,トラフの南北両側斜面に蛇行チャネル(深海長谷)が存在することが,1996年の仏調査船「ラタラン」による台湾東方・トラフ西端部のSPOT海域の調査航海(ACT航海)の際の地形調査の結果最初に明らかにされた(Sibuet・他,1998,J. Geophys. Res.)。また2000年には,「よこすか」・「しんかい6500」調査(Lequios航海)が行われた(松本・他,2001,JAMSTEC深海研究)。本調査航海は,潜水調査船「しんかい6500」によるトラフ中央地溝の形成・発達過程,トラフ域の熱水活動,広域テクトニクス・ダイナミクスの解明を目指すものであったが,夜間及び潜水船整備日には航走地球物理観測が行われ,先のSPOT海域の東側延長部の精密地形調査が実施され,その結果,トラフ南北両側斜面上の蛇行チャネルの全貌が明らかになると同時に,両者ともほぼ同規模のチャネルであることが明らかになった。これらのチャネルについては木村・他(2001,LAMSTEC深海研究)による無人探査機調査も行われており,その結果これら蛇行チャネルは,山地から平野に移行した平坦地に形成される扇状地あるいは河口にできる三角州等に酷似し,沖縄トラフ底の一部が陸化した際,潮間帯あるいは極浅海のような環境下で形成された可能性を指摘している。しかしながら,これらの蛇行チャネルは,東西方向の幅数kmの細長い高まり(マウンド)の尾根に発達し,自然堤防で縁取られていることから,中国大陸方面からの混濁流によって形成されたものと考えられ,channel-interchannel mound タイプの海底扇状地(徐・徳橋,1987,地質ニュース)の形成の途上のものと見ることが妥当である。より大規模なものは,例えばODPのLeg155で掘削が行われたAmazon Fanに見られる。


琉球大学では,長崎大学水産学部の練習船「長崎丸」を用いて,同学部との単位互換協定に基づき,学部生の専門科目「乗船実習」を毎年開講しており,学生の実習の他,琉球域での調査にも活用されている。「長崎丸」は旧船が2017年に退役し,新船が2018年に就航しており,新船にはマルチビーム音響測深機が搭載されている。沖縄トラフの蛇行チャネルが調査されてから約20年が経過し,この間,中国大陸から新たな混濁流の供給があった可能性もあり,また既存の蛇行チャネルの形状に変化があった可能性もあることから,2019年5月の同船の航海の際に,この蛇行チャネルの精密地形調査の再調査を行った。海況が思わしくなく,また時間の制約もあったことから,今回はトラフ北側斜面の調査を重点的に行った。

結果として,20年前のマウンドの位置やその尾根の部分に発達している蛇行チャネルの位置・流路の変化は検出できなかった。また,新たなマウンドも発生していない様子であった。しかしながら,北緯25度・東経122度55分から東北東方向に延びるマウンド上の蛇行チャネル底の水深が全体として20年前と比較して5~15m深くなり,一方でチャネルの両岸の堤防は15~20m浅く(高く)なる傾向が見られた。これは,現在に至るまで中国大陸からの混濁流の供給が続いていて,チャネルの下刻と堤防の成長が起こっていることを示唆する。一方,マウンドから外れた北緯25度08分・東経123度25分付近にも蛇行チャネルが存在しているが,それらについては水深の変化が見られず,既に活動を停止したチャネルであることを示している。

今後も定期的にチャネルの地形をモニターするとともに,トラフの南側斜面についても新たな地形調査を実施することが,沖縄トラフ西端部での混濁流の供給メカニズムの解明につながる。