JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 原子力と地球惑星科学

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

[HCG28-02] 瑞浪超深地層研究所の調査データに基づく割れ目調査手法の検討

*笹尾 英嗣1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

キーワード:高レベル放射性廃棄物、地層処分、結晶質岩、割れ目

はじめに
結晶質岩においては割れ目が地下水や物質の移行経路となることから,高レベル放射性廃棄物の地層処分において,割れ目の頻度や走向傾斜(本報告ではこれらをまとめて「割れ目分布」と呼ぶ)といった情報は非常に重要である。
日本原子力研究開発機構は,岐阜県瑞浪市において白亜紀後期から古第三紀初期に形成された土岐花崗岩中に瑞浪超深地層研究所の研究坑道を掘削し,割れ目分布の把握を含む地質学的調査を行ってきた(鶴田・笹尾,2016)。この結果,割れ目分布を立体的に把握することが可能となった。
日本の地層処分事業においては,文献調査,概要調査,精密調査の3段階で調査が行われるが,初期には地表からの調査が主になる。そこで,瑞浪超深地層研究所で取得されたデータに基づいて,地表からの調査を念頭に,限られた調査で効率的に割れ目分布を把握できるボーリング調査手法を検討する。

方法
瑞浪超深地層研究所の換気立坑(内径5.3m)では2回の発破・ずり出し後に約2.6mの高さの壁面スケッチが行われており,割れ目分布が1/20のスケールでスケッチされているほか,トレース調査の長い割れ目などは走向傾斜等が記載されている(川本ほか,2012,2013)。本検討では,スケッチと記載データに基づいて,立坑内の東西南北の4方位に鉛直の測線を引いた場合の割れ目遭遇率を求めた。測線の長さは,花崗岩と上位の堆積岩の不整合面を含むスケッチと,立坑と水平坑道の連接部を除いた316.2mである。また,割れ目の傾斜については,低角度(0~30°),中角度(31~60°),高角度(61~90°),記載なしに区別した。

結果と考察
東西南北の各測線における割れ目の総本数は470,379,434,432で,1m当たりの割れ目本数(遭遇率)は1.49,1.20,1.37,1.37であった。傾斜角については,傾斜が記載されている割れ目のうち,低角度傾斜(以下,傾斜は省略する)の割れ目が34~46%,高角度割れ目が47~58%であり,中角度割れ目はいずれの測線でも10%に満たない。
この結果,わずか数m離れた測線であっても遭遇率には差が認められた。そこで,各測線における遭遇率を用いて変動係数(標準偏差を平均値で除したもの)を求めた結果, 4.3となった。これは調査領域における割れ目分布の不均一性を示す数値であると言える。一方で,各測線における傾斜角ごとの遭遇率を用いて変動係数を求めると,低角度4.2,中角度7.9,高角度6.8となり,低角度割れ目で調査位置によるばらつきが小さいことがわかった。これは鉛直の測線を設定しており,低角度割れ目を捕捉しやすいことに起因すると考えられる。一方,高角度割れ目の変動係数はやや高めであるが,中角度と比べると小さい。本来,本検討で設定したような調査方位では捕捉されにくいものの,高角度割れ目の数が(おそらく低角度割れ目よりも)多いため,比較的多くの割れ目が捕捉された結果と考えられる。
次に,測線長を100mごとに分割して,割れ目遭遇率と変動係数を調べた。この結果,遭遇率が小さいほど変動係数が大きいこと,遭遇率が大きくなると変動係数は小さくなるが,ある程度の遭遇率を超すと変動係数に顕著な変化が認められないことが分かった。このことから,同じ測線長であっても捕捉される割れ目の数を多くすることができれば,変動係数をさらに小さくすることは可能であると考えられる。
原子力機構が正馬様用地内で掘削したボーリング孔MIU-1~4孔では,水平面から60°傾斜で掘削したMIU-1孔の割れ目遭遇率(3.35)は他の3孔の遭遇率(1.54~2.49)よりも大きい(割れ目データは石橋・笹尾,2015に基づく)。割れ目分布は不均一であると想定されるが,傾斜孔で遭遇率が高い理由として,高角度割れ目の捕捉率が高いことが挙げられる。つまり,割れ目の卓越方位(走向傾斜)に交差する方向へボーリング孔を掘削することより,割れ目分布をより効率的に理解できると考えれられる。
地層処分事業の初期の段階においては,限られた調査で効率的に割れ目分布を把握できることが望ましい。このためには,既に石橋ほか(2014)で述べたように,亀裂の卓越方位の法線ベクトルの平均方向へ向けた傾斜ボーリング孔を掘削することが有効であると考えられる。

文献
石橋・笹尾(2015)日本原子力研究開発機構研究開発報告書類,JAEA-Data/Code 2015-004,8p.
石橋ほか(2014)日本地球惑星科学連合2014年大会,HCG36-01.
川本ほか(2012,2013)日本原子力研究開発機構研究開発報告書類,JAEA-Data/Code 2012-009,47p.および2012-025,32p.
鶴田・笹尾(2016)応用地質,vol.56,298-307.